冷たい海【11】

 

 

 

 映像が終わり、辺りは先程と同じ海の中になった。

 

 

 少年は泣いていた。

 大きな瞳を涙で満たして、声もあげずにないていた。

 頬を幾筋も伝う涙を、少年は拭うこともせずただそこにいた。

 

「……そっか。お前、ずっとこんな想いを抱えてたんだな」

 

 掴んだままだった腕をそっと離す。

 

 アルヴィスは強い。でも、弱かったのだ。

 

 ……人間だから。

 

 

「アルヴィス」

 

 名を呼ばれ、少年は涙に濡れた瞳をギンタへ向けた。

 

「お前、もっと自分の気持ち言ってけよ。怖いとか、痛いとか、そういう気持ちどんどん言ってけよ」

 

 一人で涙が乾くのを待つなんて、そんな寂しいことをしないで。

 

 

「それは確かに弱さだけど、でも弱いのが人間だろ? 強いだけの奴なんてどこにもいねーよ」

 

 

 人間だから。弱くなったり強くなったりする。

 その生を自覚して。

 

 

「……お前は、オレの弱いトコ沢山知ってる。でも、お前は弱いオレを引っ張り上げてくれた」

 

 

 肉体的にも精神的にも、いつも引っ張ってくれた。

 ウォーゲームの時。修練の時。この世界へ来た時。

 調子に乗っているときは自分のちっぽけさを指摘して、落ち込んでいるときは下を向く暇がないと律してくれた。

 同じ目的を持つ仲間として、厳しい態度と時々見せる優しさで、前へと導いてくれた。

 

 

「だから、お前が弱くなってたら一緒に戦いたい」

 

 

 オレにも同じように、お前を導く力があると信じたい。

 

 

「お前が一人で立てなくなったときは、引っぱり起こしてやりたい。その手をオレは持ってる。……オレだけじゃない。スノウもジャックも。おっさんやナナシもドロシーも! ベルだって!」

 

 

 畳み掛けるギンタに驚いたような顔をして、少年は俯いていた顔をあげた。

 

 

「苦しいときは誰かの手を掴んだっていいんだ。皆もそれを待ってる」

 

 

 その幼い顔に、ギンタは力強く笑ってみせる。

 

 

「お前の呪いだってオレたちが絶対解いてやる!!」

 

 

 そして、彼に一番伝えなければいけない言葉をギンタは言った。

 

 

「お前は一人じゃない!」

 

 

 

 少年は目を見開いたまま目の前のギンタを見ていたが、やがて幼い声音で聞いた。

 

 

「ほんとうに?」

「……ああ」

 

 少年がおずおずと手を伸ばした。ギンタはその小さな手を取り握り込んだ。

 その瞬間、ギンタは少年が笑ったような気がした。

 

 安らぎを覚えたような表情で、とても幸せそうに。

 

 

 そして

 

 パキィィィッッ!

 

 

 世界が弾ける音を聞き、ギンタの意識は闇に溶けた。

 

 

 

 

 

→ 第十二話