Ⅱ、
列車内で一泊した次の目の朝、優雅な朝食を終えた三人は身支度を整える。
車内アナウンスが流れた。まもなく、デントラ地区。ククルーマウンテンの最寄り駅である地域だ。
レオリオは荷物の準備をしに、別の部屋に向かう。
一等客室からは、各部屋ごとに洗面所とシャワールームが設けられている。
特等の場合はさらにグレードアップして、三人が入ってもまだ余裕のある広さだ。綺麗に磨き上げられた鏡が、さらに広々とした空間を演出していた。
その部屋の端にかけていた物を取り上げ、レオリオは備え付けのドライヤーで乾かす。
ゴンがノックをして、昨晩手入れをした釣り竿を取りに来た。そこでレオリオが乾かしているのが髪でないことに気づく。
「ん? 何乾かしてるの?」
渋い顔を作り、レオリオは件の物を突き出してみせる。
「おめーが今朝汚したネクタイだよ」
「あ、ゴメン」
ゴンは気まずそうにぺろっと舌を出した。
「ったく、これホテルで買ったばかりなんだぜ?
「ああ、これがそうなんだ」
「おう、いいだろ?」
「うん」
素直に同意するゴンに、レオリオは満足げによしよしと頷く。そうしているうちに、ネクタイ生地から完全に水分がなくなる。
「よし、これでOK」
おろしたてなので、形を整えて袋に入れる。
レオリオの手元を覗き込んでいたゴンは、何気なく言った。
「それ、クラピカの服の色と同じだね」
「へ?」
その言葉に、レオリオはカバンに入れようとした手を止める。ネクタイに目を落とし、ゴンの顔を見つめ返す。
……それはつまり、おそろいということでは?
「ば、ばか言うんじゃねぇよ、何でオレがクラピカと同じにしなきゃなんねぇんだ」
「? レオリオ、何で怒ってんの?」
うろたえるレオリオに、ゴンは不思議そうに首をかしげる。
邪心などはなかったらしい。キルアの場合は自分たちをやけにからかってきたが、こいつは違うか。しばしの思考の後、レオリオは判断を改める。
自身の頭に手をやる。
そして参ったな、と心の中だけで呟いた。
本当に、深く考えず選んでいたのだ。最近何かよく見るようになったからと。
まさか無意識に選ぶほど、焼き付いていただなんて。
(……あいつ、似合うよな。あの服)
クラピカの生の感情を映し出す瞳と同じ、あの色彩を思い出し、レオリオは密かに頰を熱くした。