ssまとめ2
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泣かない子供たち / Don't joke! / 例え / もしもの行方 / Endless wounds /
Loving you / my size / Reason〈Side NANASHI〉 / Reason〈side ALVISS〉 / 運命の足音 /
egotism / 信じてる、信じてない / 嘘も方便 / still,stay / our differences /
now,walk / 会いたい気持ち / Is it delicious? / 来る者拒まず、去る者出さず / 待つ者 /
Arms / our differences ~after~ / Please, wait for me. / under the moment of eternity / 罰ゲーム /
とある魔法使いのとある会話 / ピザ屋「ルベリア」事件簿 / みんなの願い事 / 試してみた / 理不尽な世の中 /
試してみた その2 / Meet again / 心理テスト / In a fast food restaurant on January XX. / にぶくてずるい彼 /
ぼくたちのキャプテンをだましてみよう! / 悪ふざけ / ある姉妹の話 / sweet×bitter spot / 思案と不安 ~潜入前~ /
『泣かない子供たち』
夜が来ると、姿を紛らせられると思う反面不安になる。
ずっと後を尾けてきている影に、追い付かれてしまうのではないかと。
城に残してきた父や従者たちはどうなっているのだろう。安否を思うと、目頭がじんわり熱くなる。
……泣いちゃダメだ!
掌で顔を押さえ、スノウは必死に涙を堪えた。
嗚咽のようなささやきが、歯の隙間から小さく漏れるのに留める。
隣で疲れて眠るエドが起きないよう、何度も何度も空気を飲み込む。
泣いちゃダメだ!
あの子は一度も泣かなかったじゃないか!
今の私よりも小さかったのに、沢山辛いものを見ただろうに。けして涙を見せなかった青い髪の子。
思い出の中の彼は、いつも前を見据えていた。
私はまだ泣かない。絶対に。
END
アルヴィスと巡り会うことをまだ知らないスノウ。逃亡生活の頃です。
二人が六年前の時から面識があったかどうか定かでありませんが。もしスノウが彼のことを記憶していたなら、こうして自分と比較していたのかも。
2010.9.3
『Don't joke !』
「困ります、お客様……」
「いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇし」
「ですが……」
(やべぇ、あいつ3年のレノだ)
(ルーク組の!?)
(おいおい、まずい奴が来ちゃったなぁ)
(誰か追い払えよ)
(無茶言うなよ! ぶっとばされるぞ)
季節は文化の秋。文化祭の真っ最中のとある学校の一教室では、メイド喫茶と書かれたかわいらしい看板が入り口に立てかけられていた。
にぎわっていた店内に新たに入ってきた仮面を着けた物騒な客に、黒と白の清楚なメイド服に身を包んだ女子生徒やスタッフは頭を抱える。
ほかの客は彼らの横暴な態度に、遠巻きに店の様子を見守っていた。
無理難題な要求に困った店員は、奥から出てきた青い髪のメイドに何言かささやき持ち場を変わってもらう。
入れ替わりに現れたメイドに、レノと呼ばれた男は目を丸くして唸った。
「へぇ~、このクラスにこんな子いたんだ。知らなかったなぁ」
遠慮なく少女に手を伸ばし、顎を持ち上げ、端正な顔をじろじろと見る。
「おい、メイドさん特製ミルクセーキを二つだ。早く持ってこい!」
注文を黙って聞いていたメイドは、無遠慮な手から一歩下がる。
そして、盆に載せて運んできたお冷を、男の頭に容赦なくぶっかけた。
中途半端に冷たい水が、男の頭から首を伝って肩を濡らす。
コップの底に残っていた氷が、とどめのように髪の上に落ちた。
時が凍り付き、その場にいる全員が穴が開くほどメイドを凝視する。
「……何すんだよ。メイドなら主人にご奉仕すんのが仕事だろ!?」
思わず同じように固まっていた男たちは、呆気にとられた己を奮い立たせながら椅子を派手に蹴倒し立ち上がる。
乱暴に少女の身体をドンと押し、凄んでみせた。
が。
プチッ……
何かが切れる音がした。
後ろに控える男たちがえ?と思うと同時に、殴りかかるレノの拳をメイドは難なく避けた。
ワックスの剥がれかけたタイルを、黒のローファーが踏み込む。
純白フリルをあしらったスカートの間から、すらりと伸びた細い足が覗く。
絶対領域がひるがえった途端、しなやかな足から鋭い蹴りが繰り出された。
強烈な一撃がまっすぐに男の顎をとらえる。
舞い上がったスカートがはしたなくない程度に浮き上がり、その延長線上にある黒板にレノの身体が叩きつけられた。
子分達があんぐり口を開ける。
「……お前たちは理解ってないみたいだがな……」
自分たちのボスをいとも簡単に蹴り飛ばした美少女の地を這うような声に、不良たちは反射的に身体をすくめる。
「メイドはただかしずく者ではない! 主(あるじ)に敬意を持って仕える立派な職業なんだ!!」
少女と思われた人物は、クラスメイトに女装を強いられたれっきとした少年であった。
白のレースがふんだんにあしらわれたフリルのキャップを被る彼は、それまでの鬱憤を晴らすがごとく腰を引かせた男たちに怒鳴り続ける。
「崇められる方にはそれなりの威厳がなくてはならない!! それを貴様らはふんぞり返って、客は神様だという理論にあぐらをかいた暴君か!! そんな輩に仕える義理などオレは持ち合わせてはいない!! 主なら主らしく、かしずかせてみせろ!!」
「アルちゃんアルちゃん、台詞だけ聞くとメイドマニアみたいなこと言っとるで」
ー終幕ー
すいません、ふざけすぎました(土下座)
タイトルのようにアルヴィスに怒鳴られそうな話、特に設定を考えていない現代パラレルです。
別にメイドにこだわりがある訳ではなく、単に最後の台詞を言いたいがために書きました(笑)
続きを書く予定は全くないですが、気晴らしになりましたら幸いです。
2010.9.14
『例え』
「……薄茶色の彼が頑張っているわ」
「……ロランか」
「ええ」
「………………ねぇアルマ」
「君が彼らを色で例えるのは名前を知らないからだろうけど、それだとしてもそのまますぎないかな」
「そう?」
ファントムのまともな突っ込みに、アルマはきょとんと小首をかしげた。
その仕草は生前と変わらず可愛らしいものだけれども。これまでの経験からファントムはそこはかとなく嫌な予感を覚えていた。
しばらくの間、人差し指を口元に添えて考えていたアルマは、真顔で言い直した。
「……薄埃色……」
「……僕が悪かったよ、アルマ」
END
本編書いてる時自分にしてたツッコミ。そもそも最初アルヴィスのことを「青い彼」と書いてしまったのが始まりでした。
この話限定で、アルマさんが天然設定になってます。
2010.9.23
『もしもの行方』
「時々考えるの。無駄だってわかってるのに」
「……何て?」
「もしもARMがなかったら……って」
「ARMがなければ戦争も起こらなかった。ここまで人々が互いに傷つけ合うことも無かった。そう思わない?」
「そうだったら、メルへヴンはここまで発展しなかっただろうな」
「オレ達が出逢うことも無かった」
アルヴィスの一言に、ドロシーは大きく肩を跳ねさせた。
それからそのエメラルドの瞳に、零れそうになるくらい水を湛える。
「そうね」
そんな彼女に気付かぬ振りをして、アルヴィスは再び手元の本に目を落とした。
大事なのは貴方と出逢えたこと、それだけ。
END
ゲーム「カルデアの悪魔」であったギンタとスノウのやり取りアルドロverのようなもの。
意識した訳ではないんですが、アルが意外と男前になりました。
2010.10.2
『Endless wounds』
以前の戦争時とほぼ変わらない風景を、記憶にあるままガイラは辿る。
崩れかけた営舎の横を抜けて裏庭に向かうと予想通り、ガイラが探していた少年は複数の石の前にいた。
「やはりここだったか、アルヴィス」
「ガイラさん」
ガイラの姿を目に留めたアルヴィスは、ゆっくりとした速度で来る彼を心配そうに見て少し近付く。
「もう動いてもいいのですか?」
「ああ。スノウ姫に治癒(なお)してもらった」
ガイラは身に着ける独特の道着の上から、昼間深手の傷を負った腕をさする。
「優しい波長の魔力だ。彼女、良いARM使いになるぞ」
「……そうですか」
一見かよわい少女が戦力外でないことを示唆するような言葉に、安心感を得たのか、うすく微笑んだアルヴィスは柔らかな口調で相槌を打った。
「クロスガードからの参加者はお主だけか……」
ガイラは自分が傷を負う羽目になった理由と、眼前に立ち並ぶ石の下に眠る同胞たちを思い出して唇を噛む。
「あのナイトに敗北したワシはウォーゲームに参加できん。すまぬ、お前たちだけに、この世界の命運を背負わせてしまうな」
「いえ……」
心外だとばかりに口早に答えたアルヴィスは、ガイラを見て言葉を重ねようとしたが見つからなかったのか、長い睫毛を伏せて数度首を振った。
「貴方だけでも、帰ってきてくれて良かったです……」
泣きそうに歪んだ笑顔の後ろには、彼が今日一日で亡くした何人もの仲間の墓石があった。
かつて心が張り裂けそうなほど無くしたもの。そしてまた刻まれた深い傷。
それに何も言えなくなったガイラは、そっと少年に手を伸ばして頭を撫でてやった。
END
ウォーゲーム前夜。テストが終わった後、沢山の仲間達の遺体をアルヴィスは一人で埋葬してたんだと思います。
もしかしたらギンタ達も手伝ってくれたのかな? いずれにせよ、ここでアルヴィスが再度仲間を失ったのは変わらない事実。
2010.10.4
『Loving you』
長い夢を、見ていた。
記憶を思い出すずっと前から、私はもう一つの世界を知っていた。
背の高い建物が立ち並ぶ、メルへヴンとは違う世界。
見知らぬ風景の中には、自分とそっくりな小雪ちゃんがいて。
別の顔をした家族がいて。
そして、あなたがいた。
ギンタ。
あなたをずっと見ていた。
私と小雪ちゃんは同じ魂を持っていた。
“そっくり”なんて言葉じゃ片付かないほど、似通っていたのはその所為。
当たり前だよね。だって小雪ちゃんを素(もと)にして、私が作られたんだから。
私はもう一人の小雪ちゃん。マジックストーンで作られた偽りの命。
本来なら、生まれることはなかった。
でも、あなたは手を差し伸べてくれた。
私のたった一つの名を呼んでくれた。
涙を流すこの心が、作り物じゃないと教えてくれた。
私は、生きている。
あなたの隣で、生きている。
END
アニメル95話「スノウの真実」沿いのスノウ独白。
本編で「嬉しかったんだ、ギンタと初めて会えた時。ああ、やっと私の夢が叶った…って」という台詞があるのですが、彼女は修練の門での休息時、小雪とのつながりを「神様がくれたプレゼントなのかもしれない」とも言っていました。
それを踏まえて考えると、最初はギンタ達のことを何も知らず、ディアナに捕まった際入れられたカプセルの効果で、全てを思い出したのではないかと思います。
カプセルの表面に、彼女の様々な記憶が映し出されているシーンもありましたし。
最初から彼女が全てを知って、それを背負って強くなろうと頑張っていたのだとしたら、あまりにも悲しすぎる…。
2010.10.10
『my size』
私の小さな体の利点。
まず飛べること。
六枚の羽を使って、人間よりも早く移動することが出来る。
空から景色を見下ろして、遠くからでもアルを見つけることが出来る。
もう一つは、体が小さいこと。
人間じゃ身も隠せない木の陰に紛れて、偵察とかが出来る。アルの役に立つことが出来る。
もっとも、アルは役に立つ・立たないという観点からは、決して私を見ないけど。
不満なことは、やっぱり小さいこと。
アルが重そうな荷物を持っている時に手伝うとか、料理をふるまってあげるとか、普通の女の子なら当たり前のことが私には出来ない。
人間だったなら、ARMとかも使えたかもしれないのに!
この体の、一番いい所。
アルヴィスよりも、小さいこと。
目を開けると、視界いっぱいに大好きな人の顔がある。
そして彼の大きな瞳に収まる、私。
このサイズで、いい。
END
ベルがもし人間の女の子だったら、アルと旅することにはならなかっただろうな。
2010.10.12
『Reason〈Side NANASHI〉』
──ドゴォッ!!
壁に打ち付けた腕がじんじんと痛む。
それに負けないくらい、胸がずきずきと痛む。
この音は部屋を出た彼に聞こえてしまっただろうか。
行くな、と。言えたらどれだけ良かっただろう。
だがきっと、言えても彼は首を横に振っただろう。
救う手段など何一つ持っていない。
引き留めることが重荷になるなら
迷わず君が道を進めるよう、送り出すだけ。
“待っていた現実は……厳しかったよ”
──自分の痛みなど、大したことではないのだ。
誰か。この問いに、納得のいく答えをくれ。
END
「あなたがここにいる理由」サイドエピソード。その後の奇跡をまだ知らずにいるナナシさん。
MARの魅力は、誰もが他の誰かのことを考えている所にあると思います。
2010.11.2
『Reason〈side ALVISS〉』
背中に感じた視線が、引き留めたかったことを知っていた。
自分を救えないと苦しんでいたことも。
そしてそれ以上に、自分を思ってくれていたことも。
置き去りにした彼に謝罪の言葉ばかり浮かんできて、それすらももう伝えられないことに胸が痛んだ。
でも、今は。
“生きてて、いいんだ”
世界に拒絶された時、己が生きることを望んでいたのを初めて知った。
その時になって気付いた本当の願いは、運命の前に消えてしまうのだと思っていたけれど。
身体を包む感慨に、アルヴィスは新しく生まれた太陽を見つめながら胸に手を当てた。
触れた指先で、心臓の鼓動が確かに聞こえる。
あなたが今ここにいる理由は
生きるのを許されているということ
END
クラヴィーアの出来事があって、ラストバトルの数々の言葉が出てくるのだと思います。
2010.11.2
『運命の足音』
「あ、見てアル! お城の氷が………」
吹雪がやみ、空から日の光が射し込んで、丘から全景が見渡せる古城を照らした。
凍えていた花たちもふたたび元気に息づき、濡れたお城の屋根が午後の太陽に光ってとても綺麗だ。
「あのお姫様、助かってよかったね、アル」
「………」
アルヴィスが答えないのは、いつものことだ。
でもその沈黙が無言の肯定であることを、ベルはよく知っている。
あそこには、アルが喚んだ異界の少年とバッボ、サル顔の男の子とワンちゃんもいたから手を出さなかったけど。
アルは、とっても優しいから。
誰かが苦しんでいるのを見過ごすことなんか、本当はできないのだ。
「ねぇ、あのワンちゃんが化けたオッチャン、アルの知ってる人なの?」
「……ああ」
今度は答えた。アルの視線の先には、城から出て近場の街へ向かうお姫様一行がいる。
「古い知り合いだよ」
何となく、アルの服と似た印象を持つ白いローブ。イアンとかいったピアス付きのルークを、手をかざすだけで吹き飛ばしてしまったぐらいだから、多分アルの背中の紋章・クロスガードの関係者だろう。
「オレのことを、覚えているかはわからないけど」
子供達を先導するがっしりとした背を見ながら、アルヴィスは目を細めた。
「……本当に懐かしい」
この間のギンタのことと言い、今日と言い。普段の彼なら滅多に浮かべない表情だ。
勘かはわからないけど、何か大きなものが動こうとしている。アルヴィスの様子から、そんな気配がした。
END
六年間一緒だったアルヴィスの変化を、何となく予兆するベルの話です。
ギンタ達と会ったことは、アルヴィスの人生においてのターニングポイントに間違いないので。
この二人の会話だと、ついベル視点になりがちです。同じ様な雰囲気になってないか心配…。
2010.11.19
『egotism』
初めて人を殺したのは、自分の命を守るためだった。
殺す、殺されるなんてことは、自分とは無関係だと思っていた。
けれどその瞬間はあっというまに訪れて、そして瞬く間に終わる。
〇〇の為。××しなければ。
突き動かされた思いのままに、相手を倒す。
そして動かなくなった敵を見て,我に返り、あることに気付かされる。
なんだかんだと死ねない理由をつけて、結局、自分が生きたいだけなんだと。
END
とことん重くてすいません…。
ギンタとジャック以外の誰にでも当てはまりそうな話です。
本編では描かれてませんが、皆生きるか死ぬかの瀬戸際にいた面子ですので、こんなこともあったのかな…と。
2010.11.25
『信じてる、信じてない』
「姫様っ!! ここを開けてくだされ!!」
(やめろ!! スノウ!!)
「ここまで共に来たのではありませぬか!! エドワードを卑怯者にしないでくだされ!!」
(何馬鹿なことしてんだ!! さっさとここを開けろ!!)
「………ごめんね、エド」
こんな形でしか、逃がしてあげられなくて。
──これは、賭け。
エドが早いか、あの人達に追い付かれるのが早いか。
どっちに転んでもいいよう、私は、私の身を封印する。
……死んじゃうかもしれないな。
会いたい人だっていた。でも。
守られるだけじゃなくて、私だって、守りたい。
例え最初で最後になるとしても。待ってる、から。
だからお願い、神様。
一掬いの勇気を、ください。
銀のチェーンから魔力が吹き出し、少女の小さな体が氷に包まれた。
氷の結晶は床、天井、扉、そして城の外壁にまで広がってゆく。
まるで少女の孤独な決意を表すように。
待ってるよ。エド………
END
エドがギンタ達と出逢う前。希望と絶望、二つの感情が綯い交ぜになったスノウです。
何かここにおけるスノウの出現率が妙に高い気が…。
2010.11.28
『嘘も方便』
「ねぇナナシさん、アルヴィス。ジンジャーマンクッキー焼いたの。クリスマスにいっぱい作ろうと思って。試作品なんだけど、良かったら食べてみて!」
「ああ、ツリーにぶら下げる人形のかたちしたやつやな」
「有難う。いただくよ」
ぱく
「……う……」
「……どないしたんアルちゃん?」
(生姜が…生でまるごと入ってる…………)
(………何やて)
(普通これに使う生姜は、パウダーか擦り下ろしたものなんだが………)
ぱくっ
(………擦り下ろされてもあらへん。土まで付いた掘りたてホヤホヤや)
(生地と一緒に焼いた筈なのに、なんでこれだけ生なんだ?)
(アカン……こんなんいっぱい食べたら洒落にならへん。このジンジャーマンちゃんは、殺人兵器ってこっ……)
「どう? 美味しい?」
「………ああ。とても美味しいよ」
「本当? 良かった!」
「スノウちゃんは料理得意なんやな」
「うん! 本番楽しみにしててね!」
(ギンタには………)
(ああ。内緒、やな)
END
最初は腹黒スノウだったのですが、この二人が彼女を相手に正直に感想を言うともあまり思えなかったのでこんな形に。
聖夜、彼女とドロシーの洗礼をギンタは受けることになるでしょう(笑)
2010.12.3
『still,stay』
「アル、少し背伸びたんじゃない?」
いつものように先を行く彼の後ろを飛んでいた私の言葉に、アルは足を止めて二回ほど瞬きをした。
ぱちぱちと目の開閉をくり返す彼を、上から下まで遠慮なくじっと見つめる。
「……やっぱり! 目線も高くなってる!」
傍にいると気が付きにくいけれど、旅を始めた頃より確実に背が伸びている。
心なしか、鼻筋も前より通って顔立ちも少し大人びた気がする。
近くの木に背中を付けてもらい、ツンツンした、でも手触りがよくて気持ちいい髪をちょっと押さえて幹に印を付けた。
言われるがまま幹にもたれていたアルは、もういいよ、という合図に体を離して後ろを向く。
木の印を確認した彼は、はっきり表情には出さないけど、目を輝かせて自身の背の位置を見ていた。
「……でもダンナさんには、まだまだだ」
けれどそうぼやいて、不服そうにため息を吐いた。
ダンナ。
何度か話題に出たことのある名前だ。アル達クロスガードの英雄で、前の戦争を勝利に導いたと言っていた。
でもアルは、その人のことをあまり話そうとしない。
口振りから察するに、とても慕っていた人だというのはわかる。
でも彼の話をする時、アルはいつも悲しい顔になって口を閉じる。
多分、もういないのだろう。
「……どのくらいまで伸びたいの?」
その人の事には触れずに聞くと、アルは
「……あれくらい」
と言って、結構な高さにある枝を指差した。
……そんなマッチョなアルは見たくない。
しばし変な想像をはたらかせていた私の耳に、微かな声が聞こえた。
「……ダンナさん」
敬慕と、悲しみと、諦念が入り混じった、切ない声音。
その後しばらく、アルは話をしようとしなかった。
失った人のことを笑顔で話せるようになるには、まだ、時間が必要みたい。
END
20代目拍手小説です。ベルが想像したマッチョなアルとは、一体どんな姿だったんでしょう(笑)
微笑ましいけれど切ない雰囲気にしたくて書いた話です。
「now,walk」はその続きです。
2010.12.7
『our differences』
「アルヴィスって、いくつだっけ?」
「……16」
「じゃあ私の一つ下ね」
「…………年上だったのか」
「……いくつだと思ってたの?」
「……同い年くらいだと思っていた」
「あら、これって若く見られて嬉しい♪ って喜ぶところかしら?」
「……年一つでそう大した違いはないと思うが」
「そんなことないわよ~、髪のツヤとか、肌の張りとか」
「…………」
「あと身長、とかね」
「…………………」
「身長、負けてるの悔しい?」
「………すぐに追い越してやる」
「………待ってる」
END
公式設定でも、ドロシーより頭一つ背が低いアルヴィス。
Ωでは越えてたから成長期が遅かったんでしょうか? 恋人未満な二人です。
2011.1.5
『now,walk』
「ギンタには本当に驚くよ」
樹の上の小鳥達がせわしなくお喋りをする中、アルは感心するのと呆れるのと両方の表情をしながら話す。
「まさかあの一瞬であんなARMを想像するなんて、思いも寄らなかった」
アルが言うARMとは、4thバトルでギンタが見せたバッボの五つ目の力・クッションゼリーのことだ。
ギロムの強力なARM・クレバスで出来た氷の裂け目から、無傷で生還できたその能力はとても変わってて、何の属性なのか全くわからないと、目を点にしたオッサンが言っていた。
「けどやっぱり単純(バカ)だし、チビだし。ダンナさんを追い越すには、まだまだだな」
でも褒め言葉の後は厳しい評価を並べ、くすくすと楽しそうに笑っていたけど、ふと何かに思い当たったらしく首を捻る。
「……あれ? でもダンナさんと血が繋がってるってことは、あいつの背もあれくらいになるのか?」
見下ろされることになるのか……? と複雑そうに顔をしかめたアルヴィスに、それまでダンナという人のことを話すときにあった陰(かげ)は、無かった。
END
『still,stay』 の続き、21代目拍手小説です。
ギンタと出逢ったことで、ダンナの死を乗り越えているアルヴィス。
本人がはっきり自覚するのは、多分もう少し先。
2011.1.14
『会いたい気持ち』
「お待ち遠さま、終わったよお嬢さん」
「ありがとう!!」
代金の1000ピューターを渡し、カウンターからARMを受け取ったドロシーはカランコロンとベルの鳴るドアを押してARMショップを出た。
リペアを終え、無事復活を遂げたARMに頬ずりする。
「よかった~レオ~!!」
旅を始める時、一緒にカルデアを出たARMだ。ランクは低いけれど思い入れは強い。
レオには悪いけど、ランクが低いお陰で簡単にリペア出来て良かった。
元あった左腕にレオを付けようとし、ドロシ-はそこで先日手に入れたばかりのARMがかかっていたことに気付き手を止める。
「………ごめんね」
しばらくお休み、と小さく囁いて、フライングレオをドレスのポケットに仕舞った。
その代わりに名前の知らない、ブリキの巨人のARMを楽し気に見つめる。
(バッボはゲットできなかったけど…これも結構上級ARMみたいだから、行ってみて良かった♪)
(まぁあんな不細工なヒゲなんか、いらないけど!!)
コレクションの価値無し! と一蹴したドロシーの脳裏に、ふとバッボを軽々と持ち上げた少年の笑顔がよぎった。
(……それにしても不思議な子だったなぁ)
魔女の自分を怖がらないどころか、助けるために自分の背丈より何倍も大きいガーディアンに立ち向かってくれたなんて。
「ギンタ、か」
また会いたいなんて、自分にしては珍しいことを思うのも、きっとどこかおかしな彼の所為だろう。
鼻歌を口ずさみながら歩くドロシーが、それが運命を大きく変える出逢いだと知るのは、もう少し先のこと。
END
ブリキンとの戦いでレオは壊れる描写があるんですが、ディアナ戦で復活してるんですね。アニメルではそれ以前にも何回か。
多分リペアしたんだろうなぁと思ったら、こんな話が思い付きました。
タイトルは「晴れ時計」の歌詞から。この時のドロシーに、何だかすごく合う気がします。
2011.1.21
『Is it delicious?』
「ギンタ、これ」
「ん? 何だ?」
「バレンタインだ」
「へっ!?」
「……何だ、そんなに驚くことか?」
「だって……お前、これ……!!」
「お前………オレに気があるのか?」
「は?」
「悪いけどお前の気持ちには答えられない。オレには小雪がいるし、スノウやドロシーも…」
「なにを訳の分からないことを言ってる」
「だって、バレンタインだろ!」
「ああ」
「普通、女の子が男にあげるだろ!!」
「……そうなのか?」
「……え?」
「オレはダンナさんに、恋人や親しい人にチョコレートを贈る日だと聞いたが」
「………オレの国では、女の子が好きなやつにチョコを渡す日だよ」
「そうだったか………じゃあオレはお前に渡してはいけないのか?」
「い、いけないってことは無いと思う! てか、くれんなら貰う! チョコ好きだし!!」
「……そうか。じゃあ貰ってくれ」
「ああ、サンキュ! 食っていい?」
「ああ」
ぱくっ。
「美味い!! これ手作りか!?」
「ああ、ガナッシュだ。初めて作ったんだが、味は平気か?」
「すっげぇ美味い!! アルヴィスって料理得意なんだな!!」
「得意という程ではないが」
「むちゃくちゃ美味いよ!! スノウのチョコの百倍くらい美味い!!」
「!!! ……そうか…………ギンタ、幸運を祈る」
「え?」
「ギンタぁ、ちょっといーい?」
「………………ハイ」
END
本音ぽろりなギンタ。アルヴィスはスノウに最高の出来のチョコを献上する事で、難を逃れるかと思います。
女性が意中の男性にチョコをあげる風習は、日本だけなんですよね。六年前、幼いアルにこの知識を教えたダンナさんは「そういう訳だから、オレにもチョコ用意しとけよ!」とか言っていたのかも。
2011.2.14
『来る者拒まず、去る者出さず』
「なぁ……ガイラ……」
「……何だ」
「あいつ……チェスだと思うか……?」
アランの人差し指の先には、いかにも幾千の修羅場をくぐり抜けて来た感じのゴツい風貌の男がいる。
身長は二メートルに達するだろうか。周りを通りすぎる兵士達も、その背丈と雰囲気に圧倒され、やや遠目に様子を窺っている。
「いや……恐らく入団希望者だと……」
「だったら、あのまま放っておく訳にはいかねぇよな…」
「そうだな………」
そう話しつつも、二人は男に話しかけようとはしない。動こうとはしない。
チェスに挑む身として、二人とも己の実力には自信がある。アランはレスターヴァの近衛兵として戦闘訓練を受けているし、ガイラは各地の武術大会で名を挙げた猛者だ。しかしそんな二人ですら、あの岩のような顔と威圧感には何だかビビる。ぶっちゃけ声をかけるのをためらう。
「見てるだけでは埒があかぬ………アラン、声をかけてやれ」
「何だよじいさん、気になるならアンタが声かけろよ」
「うむ……いやしかし………」
と、大人げなく躊躇し合っている二人の横を通り抜けて、一人の男が彼の肩をどんと叩いた。
「よぉお前さん!! クロスガード入団希望者か?」
((ダンナ!!!!!))
「………ああ」
威勢の良い声に遅れて、男の喉から見た目と違わぬ重低音が響く。ラインがはっきり見えるほど浮き上がった筋肉を、感心してダンナはばしばし叩く。
「随分ガタイのいい身体だな! うらやましいぜ!!」
「………あんただって、十分なもんだと思うが」
何故普通に会話が交わせるのだろう。アランとガイラはダンナが不思議でならない。
そして厳つい大男の方は、柄になく気後れしているのか。ダンナの言葉に間を置いて返す。
「クロスガードに参加する資格は一つ。メルへヴンを守る意思!! それだけだ!!」
「………無論。そのためにここまで来た」
「ありがとよ!! それじゃ適当に、その辺のやつらに声かけててくれ。オレは他の奴らに知らせてくるぜ」
男の掌をぶんぶんと上下に振ったダンナは、フットワーク軽く城の裏手へと消えていった。残された男は手持ち無沙汰な様子で、きょろきょろ周りを見渡した。
すると城壁の近くで、暇を持て余したアルヴィスが岩に腰掛け、ぶらぶらと足を動かしている。
視線に気付いたアルヴィスが顔を上げ、男と目が合う。
冷や冷やする二人を余所に、自分に向かってゆっくり歩み寄ってくる男にアルヴィスは笑いかけた。
「こんにちは」
「………ああ」
「オレ、アルヴィスって言います。あなたは?」
「………××だ。お前もクロスガードなのか?」
「はい。オレは子供だから戦えませんが……××さんは新しく入ったんですか?」
「ああ。今日から入団した」
「そうですか! それじゃあ、これからよろしくお願いします!」
無邪気に笑うアルヴィスに、男の雰囲気が一瞬凍る。
「……ああ」
そして一瞬にして氷解するが如く、周囲に流れる空気が一変した。
(……籠絡しやがった…………)
(さすがアルヴィス……)
この後、ダンナとアルヴィスと言う組み合わせが、新入りを迎える黄金コンビと囁かれたとかいないとか。
END
クロスガード兵のイメージは小○力也さんボイスです。最○記のガトみたいな(とゆーかまんま/笑)
ダンナさんとアルヴィスに他意は無いです。この二人って天然タラシっぽいなぁと思ったら出来てしまったお話です。
2011.2.15
『待つ者』
「貴方ともあろうヒトが…迂闊ね」
「弄んで終わらせるつもりだったが、してやられた。危うく肉体が保たぬところだった」
女がかざした指から光が放たれ、男の傷が塞がっていった。男は痛みに噛んだ唇をそのまま邪悪な笑みに変え、くくっと喉で笑った。
「だがあの傷では長くはない。直に奴も我の一部となる」
「でもあの子が来る」
男の姿をした者に間髪入れず言い、女はその言葉を口内で噛み締めるように再度言った。
「もうすぐあの子が来るわ」
「……お前の唯一の肉親だったな」
「ええ」
「血の繋がった者には、やはり思慕と言う感情が沸き上がってくるものなのか?」
「私達の計画の邪魔をするなら、誰であろうと容赦はしないわ。あの子だろうと同じこと」
女は腕を引き、男が座す玉座の下(もと)から立ち上がった。
漆黒のドレスを波立たせ、広間の扉、延いては空中宮殿の入り口の方に目を向けた。
「……ドロシー」
紡がれた声にどんな感情が混じっていたのか。その答えは、誰にもわからなかった。
END
アルヴィス戦であれだけのダメージを負ったキングが次の話ではピンピンしてたので、多分回復してもらったんだろうと言う想像。
ディアナを書く時「女」という表現が一番しっくりする気がするのは、私だけでしょうか?
2011.3.7
『Arms』(22代目拍手小説)
腕を__振るう。
護るためにロッドを振るう。
力を、振るう。
薙ぎ払った命と引き換えにしていいものを、オレは手に入れられるだろうか。
腕を__伸ばす。
見えぬ涙が伝う頬に、手を伸ばす。
抱きしめる、代わりに。
__私の小さな両腕で、彼の心を守ってあげられたらと思うの。
腕を__掴む。
出来ることは少ない。無知で無力な自分には、過ぎてから気付くことも沢山ある。
でも、掴めた腕がある。
誰かがうずくまっていたら、迷わずに、躊躇わずに、この腕を伸ばす。
そのための力が___オレは欲しい。
腕を__握る。
弱い自分を鼓舞するように。繋いだ希望が解けぬように。
力一杯、強く。
__私を掴んでくれた腕を、ずっと握っていたい。
腕を__差し出す。
誘いの手を、同じ願いを持つ者に差し出す。
__まだ今は危なっかしいが。
いつかしら、その腕を頼りにする日が来るのだろう。
腕を__構える。
背負うものの為に、戦いに赴く。
__自分と言う存在は薄っぺらだけれど、それを犠牲にしてでも守りたいものがあることは、真実。
腕を__広げる。
全てを包み込む風のように。閉ざしていた世界を、受け入れよう。
__孤独な心の端っこに、触れてくれた皆を、迎え入れよう。
腕を__鍛える。
理由は幾多あるけれど、一番確かなものは“皆と一緒にいたい”。
その為に強くなる。自分に出来る、精一杯のことをする。
__誇りを持って、皆の隣に立つ為に。
END
唐突に思い付いたお題「腕」に即したそれぞれの独白。どれが誰のかわかりますか?
当初ベルはいるのにドロシーを忘れており(滝汗)、後日こっそり足しておきました。
バッボとエドがいないのは……単に思い付かなかったからです。すいません。
文体はばらばらですが、アルとベル、ギンタとスノウが対になってます。
2011.3.18
『our differences ~after~』
「……身長」
「ん?」
「伸びたわね」
「あれから随分経ってるからな」
「……そうね…………」
「……どうしたんだ?」
「……あの頃のアルに、もう会えないのは寂しいなって思ったんだけど」
「キスする時屈まなくていいから、嬉しい、かな」
END
時間軸はΩ。恋人設定です。
原作では言及されてませんが、ドロシーは何故アルヴィスを愛称で呼ぶようになったんでしょうね。
私の中では「アルヴィス!」と叫ぶ中島さんの声が印象的ですが。一度気になり始めたら気になって仕方ありません。
2011.3.19
『Please, wait for me.』
海中で声にならない悲鳴を上げたドロシーを迎えたのは、意外と明るい空間だった。
「……あれ?」
時折流れる血の筋がうっすらと見える、茶色に近いピンク色の内壁。
大きくうねる巨体を支える骨のアーチ。
その下に、なぜか普通の住宅のように床が広がり、妙に生活感のある空気を醸し出していた。
「ここ…何かどっかで見たよーな…」
若干腐りかけている床板の下は、いつかの時のように酸性の強い胃液ではなかったが、臭いがキツいことには変わりない。
意識を飛ばしたエドの首根っこをつかむドロシーが進んでいくと、渋い緑の絨毯の上で正座したある人物(?)がのんきにお茶をすすっていた。
「あれぇ? 君はクジラの中から出してくれたおじょーちゃんじゃないかぁ」
「ポコぉ!? あんた、どーしてこんな所に!!」
「そんなの決まってるじゃないかぁ。ここがボクのウチだからだよ」
「……ウチ?」
ポコの後ろには食器棚があり、床やローテーブルには見たことの無い蒸気を上げるからくり(ARMだろうか?)や湯のみや何やらがある。
窓がないことなどを除けば、以前のように百歩譲って住居………に見えなくもない。
「………アンタ、またクジラに食われたの?」
「違う違う、こいつは普通のクジラさ。ARMじゃないよ。海で怪我してるのを助けたら懐いちゃって、今は一緒につるんでるんだよ」
「ふぅん……」
薄く相槌を打ったドロシーの手で、気絶していた人物(……こちらも人と言えるのだろうか?)がようやく目を覚ます。周囲を見渡して、彼は大声を上げた。
「ぶはっ! な、何ですかここはぁ!?」
お盆に客人用の湯のみを乗せ、ポコはそれぞれに差し出しながら尋ねる。
「こんな海のド真ん中で、おじょーちゃんたちは一体何をしてたんだい?」
「ちょっと色々あってね……」
まあ普通に生きていたら、クジラに食われることなんてそうそうないだろう。それも二回も。
「すみませんドロシー殿……私のせいで、ほかの皆様とはぐれてしまいましたね」
「泳げないんだからしょうがないでしょ。……でもどうやって皆と合流しようかしら……」
ドロシーは海水で冷えた身体を暖めてくれる緑茶をすすった。
潮の流れから、海に落ちたメンバーはおそらく無事にパルトガイン島に流れ着いていると考えられる。
ただ、今のアルヴィスは満足に体を動かせない。それに全員が同じ場所に流れ着く可能性も低い。
地形も把握していない見知らぬ孤島で、散り散りになったところを敵に襲われている可能性もある。
「貴方はたしか、6thバトルでドロシー殿に助けられた人(?)でしたな。今は何をやってらっしゃるのですか?」
「今はこいつと一緒に運送屋をやってるんだ」
「運送屋?」
「うん、主に物資の輸送をしてるんだ。今ではクジラも恐くないよ」
「物資の輸送………」
思案に耽りながらエドとポコの会話を聞いていたドロシーは、ポコの言葉を一度繰り返すと目の色を変えた。新たに自分の湯のみにお茶を注ぎ、ほっこりとした湯気を楽しむポコに身を乗り出す。
「ねぇポコ、この先にあるパルトガインって島、知ってる?」
「え? ああ、知ってるよ」
「だったら、今から私達をそこに連れてってくれない?」
「え、えぇ!? 今からぁ!?」
「こ、このクジラでパルトガインまで移動すると言うのですか!?」
「そうよ」
「しかし、さっきのように見つかってしまうのではありませんか?」
「平気なんじゃないかしら。クジラは海の生き物だもの。泳いでいる時に“たまたま”パルトガインの近くを通っても、別に変じゃないわ」
「た、確かに……」
「皆も多分、海岸付近にいる筈よ。こんな状況じゃ単独行動は危険ってわかってるから」
「ちょ、ちょっと待ってよおじょーちゃん。パルトガインは人も住まない怪しい島だよ? そんなところに行くのかい?」
「ええ。行かなきゃいけないの」
「でも………」
「危ないことになったら、前みたいに助けてあげるわ。だから………今度は私を助けて頂戴」
ファスティトカロンの中でポコを信じさせてくれた、力強い光を持つ緑の瞳がわずかに揺らめきつつ彼を見据える。
ポコは諦めたように息を吐き、それから特徴のない顔に笑みを浮かべた。
「わかった。今度はボクがおじょーちゃんを助ける番だ」
すっくと立ち上がり、口の周りに手を当てて怒鳴った。
「おーい、進路変更だ~! 目的地はパルトガインの海岸だ~」
返事のように、クジラの胃の中でぶおおぉぉぉ…と低い音が響いた。
「ありがとう! ポコ!」
頭の先の提灯にキスをした彼女に目を白黒させるポコを横目に、ドロシーはなりゆきを見守っていたエドに向く。
「よし! まずはほかの皆と合流ね!」
「はい!」
「待っててよ、アルヴィス」
タトゥの侵食が進んだ白い頬。苦しげに目を閉じ横たわっていた彼の姿を思い出し、ドロシーは彼に届くよう、意志と祈りを込めて呟いた。
END
アニメル「城塞都市パルトガイン」の幕間劇。若干ギャグチックなのは某青い人のせいです。
タイトルはGARNET CROWのある曲をもじりました。あまり深い意味はないです。
2011.4.21
『under the moment of eternity』
「“愛してる”って言葉や、“好き”って言葉はとても刹那的だね」
「…そうか?」
「言葉ほど不確かなものはないじゃないか」
「口に出した途端消えていく……そのくせやけに心に残って、人を縛ったり突き動かしたりする」
「………」
「記憶だってそうだ。人それぞれによって感じ方も違うし、見えてるものも同じじゃない。ああだった、こうだったって、後から思えばいくらでも変えられる」
「……思い込み?」
「そう。本人にその気がなくてもね。……そんな実体のない世界で、一体どこに確固とした、揺るぎないものがある?」
「……だから、永遠が欲しいと?」
「愛し合ったって、結局は死によって離別しなければならないんだ。……だったら僕らは、変わらない存在になればいい。太古から人類が、多くの絵画や彫刻で永遠を題材に描いてきたのは同じ理由じゃない?」
「……そうだな。たしかにオレ達は永遠に憧れる」
「でも今、お前もこの景色を美しいと思っているんだろう?」
「うん」
「いつか消えてしまうのに、か?」
「そうだね………明日には見られなくなってるかと思うと、余計に寂しい」
「形あるものに、永遠は宿らない。移ろうものにこそ、それは透かし見える」
「………よくわからないや。君の言っていることが」
「……“わかりたくない”の間違いじゃないか?」
「………かもしれない」
END
景色は一応「桜が散る中」をイメージして書きましたが、どんなのでも当て嵌まると思ってます。緑の中とか秋空の下とか、流星雨とか。
心のどこかではわかりあってるけど、交わらない位置にあるファントムとアルです。
すごく私見ですが、ファントムはヨーロッパ人寄り、アルは日本人寄りの考え方なのかもなぁと思いました。
2011.5.5
『罰ゲーム』
「よーーーし! オレ上がり!!」
「私も上がり!」
「ベルも上がりー!」
「これでフィニッシュっス!」
「……っつーことは、アルちゃんの負けやな!」
「………」
「珍しいね、アルヴィスがビリなんて」
「……お前たち皆グルだな」
「あ? ばれちゃったっスか?」
「オレにばかり強力なカード出してただろ」
「だってアルヴィスいつも一番ばっかじゃん!」
「それに、アルヴィスだけ罰ゲームになったこと無いし」
「同じ展開ばかりやと、面白みに欠けるしなぁ」
「…それで、手を結んだと」
「そう! 名付けて「『アルヴィスを負かせ隊』!!」」
「くだらんものを作るな」
「それじゃあ、アルヴィスの罰ゲームは………」
「『十分間、語尾に“にゃん”をつける』」
「……はぁ!?」
「あ、ちゃんと“にゃん”を付けなくちゃ駄目っスよ」
「い、今からか!?」
「そうよ? ほら!」
「………わかった、にゃん」
「何だか面白くなってきたな! なぁアルヴィス~」
「何だ、にゃん」
「呼んでみただけー」
「……………」
「なぁアルちゃん~」
「……だから何だ」
「アルヴィス、語尾、語尾」
「…何だ、にゃん」
「…君ってホンマ律儀やなぁ」
「この罰ゲーム楽しいね!」
「ついでに猫耳も付けちゃう?」
「いつだっけ? こっちにドロシーが買った尻尾もあるよ」
「ふざけるな、にゃん」
「……何か、アタマ痛くなりそうだ……」
END
寧ろ傍観してたアランへの罰ゲーム。アホなノリにしたくて書きました。
結成した名前がダサイですね(笑)私のセンスの無さの現れです(再笑)
2011.6.26
『とある魔法使いのとある会話』
「お帰りなさい、あなた」
「ただいま。あー、腹減ったー! 早く夕飯頼むよ」
「あら、今日そんなに大変だったの?」
「そういうわけじゃないんだが、昼食えなかったからな」
「え? お弁当持っていったでしょ?」
「それが出勤中に、魔物に盗まれてしまって」
「ああ、その魔物に食べられちゃったのね」
「いや、そこにたまたまメルの人たちが来てな」
「メル?」
「ほら、ウォーゲームで戦ってる戦士たちだよ」
「ああ。このあいだ宮殿にいらした人たち!」
「彼らがまだドロシー様の連れとわからなかったから、信用するかの判断も兼ねて弁当を取り返してもらったんだ」
「あら、だったら良かったじゃない!」
「そしたら彼らの一人が、余程お腹が空いていたのか勝手に弁当を食っちゃってなぁ」
「あら! 私の作ったお弁当を?」
「そう! だから朝飯以来なにも食べてないんだよ……」
「一体どなたが食べちゃったの?」
「ん? 確か……アルヴィスとかいう子だったかな」
「え、うそ!! アルヴィスさんって、あのアルヴィスさん!?」
「あ、ああ。だから早く飯をたの……」
「クロスガードでトーテムポールを使うあのアルヴィスさん!?」
「あ、ああ……」
「うっそやだぁ~どうしよう!!」
「……お前?」
「アルヴィスさんに食べてもらえるなんて~!! 今度お礼した方がいいかしら!」
「いや、むしろこっちが貰うべきだと思うぞ……ってそれより早く飯を……」
「あんな夕飯の残り物でもよかったのかしら……でも残さず全部食べて下さったってことは余程美味しかったってことよね!」
「あの……」
「今度渡すときは、もっとおかず奮発しなきゃ!!」
「……お前、俺の飯のことはどうでもいいんだな」
END
ゲーム冒頭時の会話に爆笑した後、調子に乗って妄想。若干天然気味なアルファンの奥さんは門番の良きパートナーです。
あ、念の為ですがゲーム内に奥さんは出てきてません。あしからず。
2011.6.25
『ex.ピザ屋「ルベリア」事件簿 ~飴は何処に~』
「あーーーーーーーーー!!!」
買い物客でにぎわう老舗が連なる商店街、二階建てのピザ屋のロッカール-ムから甲高い絶叫が響き渡る。
「何や!?」
「どうしたの!?」
慌てて駆けつけた従業員の前には、蒼白な顔で部屋の中央の机を見つめている少女が。
「ないですーーーー!!」
「? 何が!?」
「チャップの飴が、ないですーーーーーーー!!!」
哀愁漂うカラスの鳴き声をバックに、ゆっくり地上に降りてくる夕陽の中で、二度目の絶叫が響き渡った。
「あめぇ!?」
「あめって、食べる飴か?」
「そうです! お仕事終わったら食べようと思って、ここに置いといたのにー!!」
「何や、なくなったのはただの飴かい……誰かが勝手に食べたんやな」
「別に飴一つくらい良いじゃないか、チャップ。また買えばいいだろう?」
「良くないです!! あれは北○道限定の夕○メロン味、最後の一個だったんです!!」
「…どんぐらい珍しいんか、自分には見当つかんけど。大事なもんやったんやな?」
「そうです!! ここの人は皆いい人だから、勝手にチャップの飴を食べるなんてないと思ってたのに………」
「……そうね。これは信用の問題よね」
嗚咽を漏らしながらの訴えに、最もだとスタンリーが頷いた。チャップはえぐえぐとモックの服を涙と鼻水で濡らしている。
「………あ。見てみ!! これ」
「どうしたの、ボス?」
「ゴミ箱の中に入ってたで」
「……飴の包み紙だ」
「これ、チャップのです!!」
「ということは、誰かがここで食べて捨てた……」
「間違いないわね」
包むべき本体を失い、くたりとだらしなく広がった飴の紙を一同は囲む。ふと真顔で、ナナシは隣の仲間に訊ねた。
「自分、食べたか?」
「いやまさか!」
「スタンリー、お前は?」
「私も違うわ」
「自分も違う。チャップ、お前が自分で食べたっちゅーことはないんやな?」
「勿論ですー!!」
「だったら一体誰が…?」
「まだ開店はしてないですから、店にいるのは我々だけですよね」
「でも皆違う……」
「じゃあ、誰が食べたんですか!?」
チャップの疑問に従業員一同はう~んと首をひねる。すると階下から、人が上がる音が聞こえて来た。
「どうした、お前たち」
「ガリアン!」
「ガリアン様ぁ!!」
「チャップ………何があったんだ」
チャップに泣きながら懐に飛びつかれたガリアンは、困惑しつつも彼女の頭に手を乗せる。
だが質問の答えに代わるモックの言葉に、バンダナで見えにくい表情をわずかに変えた。
「チャップの飴が、誰かに食われちまったんすよ!」
「飴……?」
「そう。○海道限定のマスクメロン味。最後の一個をこのテーブルに置いといたら、誰かが食べちゃったんですって」
「マスクメロンじゃありません! ○張メロンです!!!」
「どっちでも良いじゃない。ガリアン様、心当たりはありますか?」
「い、いや……心当たりは……ないが……」
(……もしやアレが……?)
数分前の行動をはっきりと思い出そうとするガリアン。しかしその隣で、予想外のことをナナシが呟く。
「……もしかしたら飴はカモフラージュかもしれんな」
「カモフラージュ?」
「ほかの物を盗んだのがバレんように、目につくもんを隠して自分らを撹乱させたんとちゃうか?」
「え……」
「だったらまずいじゃない! 飴どころの話じゃないわ!」
「あ……」
「金庫!! 金庫の金は大丈夫か?」
「大丈夫です! 鍵も開いてません!」
「あの……」
「ほかに荒らされたところないかしら……皆、徹底的に調べて!!」
「……実は……皆……」
「まさかガリアン様な訳ないしなぁ」
「!」
「そうよねぇ。ガリアン様な訳ないし」
「!!」
「そうです!! ガリアン様が食べる訳ないです!」
「!!!」
すっかり打ち明けるタイミングを逃した店主のガリアンは、部下たちが走り回る横で背中に激しく汗を垂らしていた。その様子にナナシだけが気付き、黙って薄く目を細めた。
END
一日遅れてしまいましたが、ナナシの日(7月4日)記念ss。ナナシさんというよりルベリアの面々中心で、ガリアンのイメージぶち壊しになってしまいました。
ここ数日文章を書けていなかったので、リハビリがてら書きかけファイルからサルベージしてきました。
2011.7.5
『みんなの願い事』
「どうだギンタ、飾り付け終わったか」
「ああ、丁度終わった! 七夕の飾りって訳わからないよな。この輪っかとか何の意味があるんだろ」
「輪っかは知らないが、この『吹き流し』というやつは、織姫の織り糸の形を表しているそうだ。長寿を願ったものらしい」
「へぇー。まったく関係ないってわけじゃないんだ」
「ああ。次は短冊だ。各クラスと生徒会回って回収して来たぞ」
「これ全部吊るすのか……ファントムの奴、『せっかくの七夕だから笹でも飾ろうか』はいいけど、飾り付けする方の身にもなれよ……」
「全くだ。今度おごらせてやろう」
「おーし! んじゃ早速付けてくか」
「そうだな。………ギンタ、これお前のだろ」
「え、どれ?」
「『身長!!』って書いてあるやつ」
「何でわかったんだ!?」
「わからない方がおかしい」
「ちぇ、何かバカにされてるみてー。……あ、これスノウの字だ」
「へぇ。何て書いてあるんだ?」
「……『料理が“もっと”上手くなれますように』
「……とりあえずオレは『もっと』という所に疑問を呈したい」
「……オレも。この辺オレたちのクラスだな。『ひまわりがきれいに咲きますように』『お魚いっぱい食べられますように』『平穏無事な日々が送れますように』……」
「名前がなくても、何となく誰の願い事だかわかるな」
「あ、『今度の日曜日晴れますように』だって。日曜海行けるといいなー」
「天気予報だと、今のところ晴れらしいぞ」
「『女の子とイチャイチャv』………これ、アイツか」
「……身内だと思いたくないな」
「『ドリルババアの授業がなくなりますように』」
「………よっぽど鬱憤たまってたんだな、ドロシー」
「『アランのおじちゃんとデートv』」
「………その次は?」
「『猫嫌い』……一緒に書いたのか…」
「……みたいだな」
「『ファントムの役に立ちたい』『ファントムに褒めてもらいたい』」
「……あの二人か……」
「『ファントムファントムファントムファントム』」
「……もはや願い事じゃないな」
「あ、こんなのもあるぞ。『アルヴィスさんが振り向いてくれますように』」
「…………」
「ご指名だけどどうすんだ?」
「……それは織姫と彦星しだいだ」
「その気ねーくせに………あれ、お前短冊書いた?」
「ああ、一応な」
「今見てたのにあったか?」
「さあな。それより、早く済ませないと皆に怒られるぞ」
「うわ、やべっ!」
END
七夕記念ss。学園パロです。大体おわかりかと思いますが、文中の願い事はギンタ、スノウ、ジャック、アクア、アルヴィス、ベル、ナナシ、ドロシー、シャトン、アラン、キャンディス、ロラン、とある女子生徒です。ファントム連呼はテンションの上がったキャンディスさんとロランの二人です。
文には載せてませんが、ファントムの願い事は「愉快な事が起きますように」。アルと正反対という設定です(笑)
2011.7.8
『試してみた』
それは休日の穏やかな午後だった。
「なぁナナシ。アンダータって、一度行った場所ならどこでも行けるんだよな」
「せやでー」
「じゃあさじゃあさ!」
「ウォーゲームのバトルフィールドにも、行けんのかな?」
暫し、ナナシは期待に目を輝かせているギンタを見つめた。
「………行ってどうすんねん」
「一度行ってみたいんだよー! オレ2ndバトル見てないしさー」
「……ああ、そういやキミとジャックは、ガイラのじーさんに捕まっとったんやったな」
あの時は二人とも相当しごかれたらしく、ボロボロになって戻ってきていた。
……そういえばギンタ達が帰ってきたその後、何か恐ろしいものを見たような気がする。まあ気の所為だろうと、ナナシは脳裏によぎる桃色の魔女の影を意識の外へおしやった。
「ナナシ達が行ったのは砂漠フィールドだったんだろ?オレも行きたい!」
「砂漠って、ホントにフツーの砂漠やで?なーんもあらへんよ?」
「それでもいい!」
「……そんじゃまぁ、一応試してみるか」
慣れた動作で、ナナシは指のリングに魔力を通わす。
「アンダータ! 自分ら二人を、砂漠フィ-ルドへ!!」
「すげーー!! 砂漠だーー!!!」
「へぇ。ってことは異空間とかやなくて、メルへヴンのどっかにあるんやな、ここ」
「砂だぁーーー!!!!」
「そんな珍しいんか?」
「広いーー!!!」
興奮するギンタはナナシのすぐ傍で叫んでいたかと思うと、次の瞬間にはありあまる体力でどこかへと走ってしまっていた。
やれやれとナナシは頭を掻くが、まあこんな事もいいかと、砂塵を巻き起こしながら駆け回る彼を見守った。
~十分後~
「飽きた」
「もうかい!」
「帰ろうぜー」
と早くも促されたナナシは、すっかりどこぞのタクシー代わりにまたアンダータを発動させられることとなった。
END
ナナシさんの面倒見のいいお兄ちゃんな部分が書きたかったものです。
彼は親戚の子とかに、いじられつつすごい慕われてそう。
2012.1.21
『理不尽な世の中』
「アルヴィスって、器用だよな」
「何でも出来るっスよね」
「そんでもって悔しいけど、イケメンだよな」
「バレンタインもチョコ、きっと沢山もらうんスよね」
「けどさ、完璧ってわけじゃないと思うんだよ。アイツにだって苦手なことはある筈だ!」
「まあそりゃそうだろうけど。人間だし」
「オレ達でアイツの弱点を探ってみようぜ!」
「…そんなことして、何になるんスか?」
「アルヴィスの弱みを握れる!!」
それはちょっと……いや、かなり魅力的だが。
「バレたらボコボコにされそうな気がするんスけど……」
「………」
13トーテムの鉄槌を思い浮かべ、二人は身震いした。
「まあその時はその時だ!! 行くぞー!」
「今言葉を飲み込んだよね! おい!」
ジャックのツッコミを無視して、ギンタは話題の当人であるアルヴィスに向かい突撃を開始した。
「アルヴィス! ちょっと聞きたいんだけどさぁ」
「ん? 何だ?」
「お前、料理できる?」
「ああ」
「そうだよな! やっぱ出来ないよな……って、えー!! マジで!?」
「料理できるんスか!?」
「オレは一応一人で暮らしてきたんだぞ? 料理を含めた家事は大体できる」
「初めて知ったっス…」
「コンビニ弁当とかじゃなかったのか?」
「コンビニ……? 何だそれは」
「あー……いや、気にすんな」
「ベルに作ってもらったりはしなかったんスか?」
「自分のことは自分でするのが当たり前だろ。それに彼女はオレ達とは体の大きさが違う」
「なるほど……納得っス」
「一緒にお菓子を作ったりはするけどな」
「へぇ~……なんか羨ましいっスね…」
「よ、よし! それならトランプで勝負だ!!」
「? 勝負?」
「男としての“コケン”がかかってるんだ! いいからやれ!」
「……2ペア……」
「スリーカード!」
「……フラッシュ」
「くそー! もう一回だ!」
「! やった! ストレート!!」
「フルハウス!! どーだ!!」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「「ありえねえ!!!!」」
「ロイヤルストレートフラッシュって、確か60万分の1の確率っスよ!!」
「お前なにかARM使ってない!? じゃなきゃこんなの普通出せねーよ!!」
「使ってない。それに勝負は勝負だ」
「くそ~。ほかに何か……そうだ! おまえ歌歌ってみろよ。きっとすっげー音痴なんだろ?」
「何で決めつけるんだ」
「イケメンってのは、たいてい半分以上の確率でひどい音痴って相場が決まってるんだよ!」
「どこの相場だ」
「じゃあ歌え!」
「断る。何故おまえの前で歌わなきゃならない」
「へぇ~、じゃあやっぱり音痴なんだな。やりぃ!」
「あ、ギンタンだめよ。アルヴィスは歌上手だから」
「へ?」
「そーなんスか? ドロシー姐さん」
「こないだテラスで歌ってたの聞いたもん」
「え、あれ聞いてたのか……?」
「すっごく楽しそうに歌ってたわよ。しかも上手いのよね~、悔しいことに」
「上手いって……どれくらい?」
「プロになってもいいくらい」
「……マジか」
「完璧すぎるっス……」
「……何でもいいから、なにか苦手なこと作っとけよ、アルヴィス! 完璧すぎる男はもてないぞ!」
「そ、そうそう! 少しくらい隙がある方が、女の子が近付きやすいって言うっスよ!」
「別にオレはナナシみたいになりたい訳じゃないから構わん」
「………ちくしょー!! 何だよコイツー!」
「ずるいっス! 何でアルヴィスばっか!」
「世の中不公平だー!!」
「そうだー!!」
「……何なんだ一体……」
END
俳優の向○君みたいに、顔も学歴も良く料理もできるイケメンというのはいるものです。
ロイヤルストレートフラッシュは1/649740の確率だそう。そんなの出せるアルヴィス半端ない…(笑)
2012.2.11
『試してみた その2』
「ファントム。ウォーゲームのバトルフィールドのことですが、何かお考えはありますか」
「そうだねぇ……前回みたいに属性ごとのフィールドがあった方が面白いよね」
そう言うと、ゆったりと玉座に腰掛けたペタの仕える主君は思案する。
「氷は氷原、炎は火山、無属性は……前と同じでレギンレイヴでいいか。風は砂漠かな」
「砂漠でしたら、東の山脈あたりはどうでしょうか。広さも十分ございます」
「うん、それでいいと思う」
「ではその様に。ほかに候補が見つかりましたら、お教え下さいませ」
「わかった。適当に見繕っとくよ」
~数日後~
「ねぇペタ、バトルフィールドにいい場所を見つけたんだ」
「左様ですか。では早速拝見いたします」
ペタはいつものようにファントムの隣に立ち、室内に設置されたマジックミラーを発動した。
何処かの景色が映る。地下のような場所に、巨大な物体が映っていた。
「……キノコ……ですか」
「そうだよ、キノコ」
「………………」
「……ん? どうしたの?」
「いえ、別に……」
「足場も十分あるしね。木属性に向いているフィールドだと思うよ」
「そう……ですね……」
それだったら森とか草原でもいいのではないだろうかと思ったが、ペタは黙っておいた。
「わかりました。では“キノコフィールド”として、こちらも加えましょう」
「うん、頼んだよ」
~そして~
「キノコすげーーーーっ!!」
「中央に大きなキノコがあるな」
幾日か後のウォーゲームで、盛り上がる勇者たちの姿があった。
END
フィールド絡みの話その2。バトルフィールドをファントムも考えてたら面白いなと思って書きました。
アニメ曰く「見るからに毒キノコ」の色らしいキノコの森。あのような場所を見つけてくるチェスの面々って、結構まめですよね(笑)
2012.3.3
『Meet again』
「ナナシ、これ」
主語のない呼びかけに振り向くと、呼びかけたアルヴィスが掌の中身を差し出した。
何かと思えば、ついこの前まで自分が持っていたARMだ。
「アンダータ……そう言えば、ずっと預けたままやったね」
軽く口の端を上げ、ナナシは文様の消えた白い手から指輪を摘み取る。
「おおきに。確かに受け取ったで」
ナナシの手に戻った指輪を見て、アルヴィスはほんの少し……親しい者であれば目に見えてわかるほど、柔らかく笑った。
「……やっと、返せた」
言葉少なな彼らしい、短い囁きには万感の意が込められていた。再び同じ場所に立てることに、ナナシも込み上げてくる喜びを噛み締める。
指環を元通り右手の中指に通そうとして……あることに思い至り、微笑んだ。
「……やっぱこれ」
ヒュッ、とリングが空を切る。
「アルちゃんにあげるわ」
投げ渡された指環に目を丸くして、かつての様に、アルヴィスは不思議そうな顔でナナシを仰ぎ見た。
「アルちゃん、アンダータ持っとらんやろ? 自分はルベリアに戻ればいくらでもあるし」
長い髪とバンダナをなびかせ、ナナシは彼特有の冗談めかした口調で続けた。
「時々それで、会いに来てぇな」
あの時は、切羽詰まった状況で笑顔もなく別れた。
けれど今は、互いに再会を確信している。
「……わかった。ありがとう」
翳りのない顔で未来を話せることが、この上なく幸福なことに思えた。
「……でもどうやって帰るんだ? お前」
「……あ」
ま、まあ砦の仲間も持っとることやし、迎えに来てもらうわ! と上ずった声で返したナナシに、アルヴィスは「やれやれ」と言いたげな表情で苦笑した。
END
アニメル設定でのその後の話。放送当時読んでいたΩのアルヴィスが、アンダータをどうやって手に入れたのか考えてふと出来たものです。
タイトルが最後まで思い付かず、思い付いたら同名の林原さんの曲が脳内でエンドレスで流れています…(笑)
2012.3.16
『心理テスト』
「「腕時計?」」
「うんっ。ギンタ達はどんなの着けるの?」
「……オレ持ってねぇんだけど……」
「オイラも……」
「ん~じゃあ、着ける予定とかは?」
「う~ん、今んトコ必要ねぇしなぁ」
「そうっスねぇ」
「無くても別になぁ!」
「そうっスねぇ!」
「…………ふぅん、そうなんだ」
「腕時計?」
「そう!」
「せやねぇ……お洒落なもんから、機能性が高いのまで色々やな。そん中から状況に合わせて着け替えんねん」
「状況って?」
「デートに決まっとるやん! そん時の自分に一番似合うもんを着けるんや。色男はファッションにも気を遣うんやで~」
「……ふぅん…ファッションかぁ……」
「……? どないしたん、スノウちゃん、何か顔怖いで」
「ううん、ナナシさんらしいな……って思って」
「せやろせやろ? もっと褒めて~!」
「褒めてはいないんだけど……」
「腕時計?」
「うん」
「何だぁ? 俺にくれんのか?」
「違うよ。欲しいならあげてもいいけど。アランはどんな腕時計を着けるの?」
「時計か……俺が持ってんのはこれだが」
「……それ懐中時計じゃない」
「腕に着けると、手首が動かしにくくて邪魔だからな。ARMも着けにくいし、俺はいちいち時間を気にする性分じゃねーからいいんだよ」
「…………そんなんだからいつまで経っても結婚できないんだよ」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。何でも!」
「腕時計?」
「うん!」
「そうだな……そのうち欲しいとは思っているんだが、まだ持ってないんだ」
「そっかぁ。じゃあ持つとしたら、アルヴィスはどんなのが良いの?」
「うーん……値段はそんなに高くなくていいから、シンプルなものかな」
「もし壊れちゃったりしたらどうする?」
「修理して、なるべく長く使えるよう努力するよ。きっと愛着もあるだろうからな」
「そっか……そうだよね!」
「ああ。……スノウ? どうして笑ってるんだ?」
「うふふ。何でもなーい!」
「腕時計?」
「うん。ドロシーはどんなの着けるの?」
「うーん、生憎今は持ってないんだけど……どうせ持つなら、吟味して買いたいわね」
「壊れちゃったら? 買い替えるの?」
「まあ最後はそうするしかないけど……。でもお気に入りのはずだから、出来るだけ大事にするわ」
「ふ~ん……あ」
誰かと、似てる。
「ん? 何?」
「ううん、何でもなーい!」
腕時計が意味するもの────恋人。
END
よく言われる心理テストから。ゼミの先生曰く信憑性が薄いテストだそうですが、何も言わず友達とかにやってみると結構面白い結果になります。
ちょっぴりアルドロ風味なのは趣味です。
2012.4.18
『In a fast food restaurant on January XX.』
「……ドロシーちゃん、問四解けた?」
「ううん。難しいから先やってる」
「そーやろなぁ……うわ、これK大のやん。道理でレベルが違うわけや」
「……あー……ダメ、もうムリ。集中力切れた」
「下で何かジュースでも買うてくる?」
「……ナナシ、ドロシー?」
「あ、みんな!」
「勉強お疲れさまっス!」
「なんか久しぶりやねぇ」
「始業式以来だからな」
「ごめんね、直前期なのに連絡しちゃって」
「気にしないで。ずっと勉強だと気が狂っちゃいそうだから」
「せやせや。これくらいの息抜きは許されんとね」
「はいこれ。ちょっと早いバレンタインデーと、皆で買いに行った…」
「必勝祈願のお守り!! これでばっちり合格しろよ!」
「わぁ……ありがと!!」
「おおきに! 鞄にしっかり付けとくで!」
「ちなみに……このチョコ、スノウが作ったの?」
「そうだよ!」
「「……ふーん……」」
「大丈夫っスよ、二人とも。一応アルヴィスも一緒に作ったっスから」
「そう! なら大丈夫そうね!」
「せやな!」
「……そこ安心するところなの?」
「おお。らしくなく励んでんな、受験生」
「アラン先生。今日出勤日なんですか?」
「ああ。これから遅い昼飯だ」
「アランー、これの問四教えてー」
「俺は数学は専門外だ」
「わかってるわよ。言ってみただけー…あとで答え見よっと」
「来週っスよね、ナナシの併願校の受験日。……どうっスか?」
「併願は心配しとらんで。肝心なんは本命や、本命」
「天下のW大だな!」
「ドロシ-もそこが第一志望なんだよね?」
「受験生なら誰もがあこがれる大学だもの。……でももう疲れたー。早く終わらせて遊びたいー。……この時期にキャンパス割引とかさ、嫌がらせとしか思えないわよね」
「バレンタインもな。さすがに今はいくらプレイボーイの自分でも、お礼まで気が回らへんで…」
「……ナナシがまともなことを言った……」
「あのナナシが……」
「キミら、どんだけ自分のことを遊び人やと思っとん? 一応人生かかっとんのやで!?」
「まあそうだよな……」
「大変っスねぇ……」
「おいおい、お前らだって二年後はああなるんだぞ」
「そ、そうっスね……」
「二年後かぁ……私達ももうすぐ二年生だもんね」
「どんどん現実が近くなるな……何かさ、オレ大人になりたくなくなってきた」
「それはあれっスよ。ピーターパンシンドローム」
「ああ、あれか。倫理でやったやつ。誰かネバーランドに連れてってくれねぇかな? なあアルヴィス?」
「……何故オレに言う?」
「何となく」
「キミら受験生の前でなんとかランドとか言うんやない! 現実逃避したいのは自分らの方や!」
「そうよ? だいたい他人事みたいに言ってられないわよ、アルヴィス。来年はアンタの番なんだから」
「オレは推薦狙いだから、受験勉強は今年中に終わらせる予定だ」
「うわ、ずりぃ!」
「ずるくない。何のために成績上位キープしてると思ってるんだ」
「そっかぁ。そういう方法もあるんだ」
「アルちゃんの内申なら、A大とか余裕やろなぁ。きっと」
「くそ~! 来年うっかり推薦に落ちて必死になってるアンタを笑ってやるんだから!」
「頑張れ、受験生」
END
二月の就職活動中(まだ終わってません)、某ランドの広告にかっとなって書きなぐったもの。
あまりに会話が生々しすぎたので(笑)、暫く封印してました。受験生&就活生の皆様、お互い頑張りましょう!
2012.5.12
『にぶくてずるい彼』
「はい?」
「……え?」
「お昼、食べてないんでしょ」
「……忘れていた」
「アンタって、そういうとこ抜けてるわよね」
「……ふん」
「……ちょっと、まさかここで食べる気?」
「え? あ……」
「図書室は飲食禁止でしょ? アル?」
「…わかってるさ」
「ほら、さっさと本置いて出るわよ。また来ればいいじゃない」
「……ああ」
(ほんと、こういう時は子供みたいなんだから)
「……あ、そうだ」
「ん? なに?」
「ありがとう。昼持ってきてくれて」
「………別に、残ってたの包んだだけよ」
END
選択お題「神秘」の続き。サンドウィッチを持ってきたのはドロシーでした。
意識してるドロシーと、意識させてる自覚なしのアル。わかりにくいけど一応ベルもいます。
2012.12.24
『ぼくたちのキャプテンをだましてみよう!』
「……ギンタ!」
「よ、ジャック。どうしたんだ? 深刻な顔して」
「実は……」
「?」
「白状するっス! 昨日ギンタに食べさせた野菜のことなんスけど…」
「ああ、あれか? 美味かったぜ!」
「あの中に、実は傷んだやつも混じってたんス! オイラ今朝気付いて……本当にすまないっス!!」
「……それ、嘘だろ?」
「え?」
「ジャックがそんなミスしたこと、今まで一度もねーじゃん。何でそんな嘘吐く必要あるんだ?」
「……ギンタ、今日何の日か知ってるっスか?」
「今日? ……あ! エイプリルフール!!」
「そう! だからちょっと嘘吐いてみたんスけど…流石っスね! すぐ見抜かれた!」
「そりゃそうだよ! お前とオレの仲じゃねーか!」
「……へへ。何だか嬉しいっスね!」
「えっへへ。オレも何か嬉しい!」
「よし、今日も美味しい野菜をご馳走するっスよ!」
「やったー! サンキュージャック!」
「ちなみに食虫ならぬ食人植物は混じってたっスけどね」
「嘘ォ!!」
「嘘っス」
「そ、そっか……あー、びっくりしたー……」
ジャック……△
「はー、食った食った……お、バッボ」
「……ギンタよ……実はオヌシに隠していたことがあるのだ……」
「な、何だ?」
「実はワシには……子供がおるのだ!!!」
「………それ、いつのギャグだっけ?」
「ジャックの家の時じゃな」
「………相手は?」
「おらぬ」
「そっか……お互いさびしーよなー……」
「オヌシにはスノウちゃんたちがおるではないか」
「うーん、でも何かこわいしさ……」
「そんなことを言っておったら、罰が当たるぞ」
バッボ……×
「ギンター!」
「あ、ス、スノウ! 奇遇だな!」
「? どうしたの? 何だか変なカオしてる」
「いや、何でもない何でもない!」
「??? ……ねぇギンタ、そういえばこのリボンの中に何が入ってるか、この前気にしてたよね?」
「あ、ああ! ……そうだったっけ?」
「このリボンの中にはね……実は、沢山のユキちゃんが入っているのだ!」
「……嘘だな」
「あ、やっぱりわかる……?」
「もし入ってたら、リボン湿ってるはずだろ」
「あ。そっかぁ」
「って、今気が付いたのかよ!」
「うん。えへへ」
「ははは! もっと考えとけよー!」
「そうだね! えへへ、失敗!」
スノウ……×
「おっす! オッサン」
「よぉギンタ。丁度いいところに来たな」
「いいところ?」
「実はおめーに、言っときゃならねぇことがある」
「オッサンも? 何だよ?」
「…こんなナリだがな、俺はまだ二十代なんだぜ」
「ええええ!? 嘘だぁ!! それ絶対嘘だろ!!!」
「嘘じゃねーよ。犬と一緒になった時の呪いで、ついでに老けちまったんだ。本当はお前らとたいして歳変わんねーんだぜ」
「へーー!!! 知らなかった!!! ……でもそしたら、アリスで呪いを解いたときに元に戻るはずだよなぁ……」
「……あ」
「じゃあオッサンは元々老け顔なんだな! そっか!」
「………悪かったな、老け顔でよ」
アラン……○
「よー、ギンタ」
「おぅ、ナナシじゃん」
「ギンタ……君に一番に報告するわ」
「ん? 何を?」
「自分、結婚すんねん」
「え! 誰と!?」
「ドロシーちゃんと。戦争が終わったらな」
「マジで!!? ……待て、それも嘘だな」
「お、正解や! よぅわかったな~。自分とドロシーちゃんのラブラブ具合やったら、信じてもおかしくあらへんのに」
「どこからどう見てもラブラブじゃねーし」
「あれぇ? そぉ?」
「それとな、ナナシ。昔小雪が言ってたんだけど……エイプリルフールに吐いた嘘は、現実にはならないらしいぞ」
「……え、それホンマ?」
「ホンマ」
ナナシ……×
「やっほー、ギンターン♪」
「ドロシー……うわっと! 急に抱きつくなよ!」
「うっふふふ。実はね、ギンタンに伝えたいことがあるの!」
「え、今度は何だ?」
「内緒だったんだけど……私ね、結婚するの!」
「………」
「どう、驚いた?」
「…………ナナシにも言ったんだけどさぁ、ドロシー」
「うん?」
「エイプリルフールに吐いた嘘って、実現しないらしいぞ」
「……え?」
ドロシー……×
「……ギンタか」
「よ、アルヴィス。今日エイプリルフールだからって、皆色んな嘘をオレに言ってきてさぁ。あ、お前もなんか嘘吐くの?」
「いや、くだらないことはしない主義だ」
「だよなー。お前はそう言うと思ったぜ。ふー、やれやれ」
「………ギンタ」
「ん? 何だー?」
「……こんな時に言っても、信じてもらえないかもしれないが…」
「だから何だよー?」
「オレ……実は女なんだ」
「…………………」
「……………………………」
「…………………………………………………」
「……! だからナナシはお前のこと、ちゃん付けで呼んでたのか!」
「……ん?」
アルヴィス……○
END
遅れすぎたエイプリルフールネタです。アルヴィス体張り過ぎ(笑)
スノウのリボンネタはファンブックのクイズからです。
2013.4.12
『悪ふざけ』
指に填めるARMの一つを発動させる。収納用のそれから、とっておきのコレクションを取り出す。
「他人に化けられるARM……」
静かに呟き、また魔力を高める。体が光に包まれ、背丈も格好も別人のものへと変わる。
「……うん、我ながらそっくりv」
あと、彼女なら普段は付けないリップを塗って、準備は完了。
頭のリボンを翻し、目的の人物の許へと駆けた。
「ねぇ、ギンタ……」
「何だ? スノウ」
何気なく振り向いたギンタは、声をかけてきた少女の様子にドキッとした。
照れのためか、ほのかに紅く染まった頬。伏し目がちの表情は、いつもよりどことなく、色っぽい。
「……キスして?」
「ス、スノウ……?」
「キスして……ギンタ……」
「どうしたんだスノウ、何かいつもと違うぞ……?」
首に手をかけてくる彼女を慌てて押し戻そうとすると、
「イヤなの……?」
潤んだ瞳で見上げられる。睫毛の奥に潜む水を認め、ギンタはぐっと言葉に詰まった。
無意識のうちに、ごくりと唾を飲み込む。
…………そんな、上目遣いで見られては……
男として……こう……手を出さないわけには…………
予想外の展開に混乱するギンタだったが、再度唾を飲み込むと「オレじゃない、スノウがどうしてもって言うから……」と誰かに言い訳をしながら、きゅっと目を閉じて待つ彼女の小顔を見つめる。
少しずつ、ゆっくりと唇を近付ける……
がちゃっ
「ギンタ、いるー?」
扉が開き、キス寸前の二人組と訪問者がおたがいを見つめ合うこと、十数秒。
「……スノウが二人―!?」
「ギンタが私とー!?」
「何よー、せっかく良いところだったのにー」
「そ、その声はドロシーね! 早くギンタから離れてっ!」
「いいじゃない別に。今のあたしはアンタと同じ顔なんだから、ねぇ?」
「ダメダメ! ぜーーったいダメ!!!」
「ギンタ~ン、キスしてv」
「ダメ! ギンタ、キスするなら私と!!!」
「え、えええ!!うわぁ~!!!」
「……いつものことながら……」
「モテるっスね、ギンタは……」
「……羨ましいで…ホンマ……」
END
…タイトル通り、ふざけたものが書きたかったんです。
2013.4.26
『ある姉妹の話』
あるところに、年の離れた二人の姉妹がおりました。
一人は魔女で、一人は魔女の見習いでした。
二人は、とても仲の良い姉妹でした。
姉はいつも、妹の面倒を見てあげていました。
姉は手先がとても器用でした。
おもちゃをせがむ妹に、ある日姉は人形を作ってあげました。
妹はそれを、とても喜びました。
しかし、妹は遊ぶのに夢中になり、いつもそれを壊してしまいました。
けれど、姉はやさしくそれをたしなめ、いつも人形を直してくれました。
『今度は壊しちゃだめよ』
直した人形を手に、姉はいつも妹にそう言いました。
姉は妹の笑顔を見るのが好きでした。
妹もやさしく強い姉が大好きでした。
たった二人の姉妹は、おたがいが大好きでした。
そんなある日のことです。妹は大好きだった人形をなくしてしまいました。
探しても探しても見つかりません。
その時、新しく作ってくれる人は、もう傍にいませんでした。
妹は大きな箒を持ち、人形を探しに旅に出ました。
大きな箒は、一人前の魔女の証でした。それを使って、妹は空を飛ぶのです。
世界中の空を、妹は飛びました。
見習いだった妹は、魔女になりました。
背も大分伸びました。もしかしたら、姉と同じくらいにまで届いているかもしれません。
そして長い長い旅の果てに、ようやく妹は人形を見つけました。
ずっと探していたそれは、沢山の時間が経ったせいでぼろぼろです。
妹は、わずかの間ためらったあと、人形の鼻をへし折りました。
ぽきっと音を立てて、人形の鼻は折れました。
もう、それが動くことはありません。
粉々に砕けた人形を、妹は抱きしめました。
こんなに小さかったでしょうか。覚えているものとすっかり違います。
妹は泣きながら、震える声で言いました。
「おねえちゃん」
壊れた人形の顔に、最後に笑みが浮かびました。
END
昔話っぽく。昔話の特徴は「単純な言葉」「繰り返し」「修飾語の少ない文章」だそうで。
心無しかそれを意識しながら、息抜きに書きました。
2013.10.6
『sweet×bitter spot』
甘い香りと、華やかな内装。
お喋りを交わしているのは、どちらもちょっとお洒落な格好をした女の子達。
普段ならば、大変喜ばしいシチュエーションなのだが。
「君ら、まだ食べるん?」
童話の世界を模した可愛らしい店内で、うんざりとした顔をしたナナシは目の前に座る彼女達に言った。
「「勿論」」
変わらない答えに、つい溜め息が出る。
「そろそろ止めにしたりせぇへん?」
野暮だと思いつつも提案するが、そんな彼に皆一様に不思議そうな顔を作る。
「「なんで?」」
「いや、なんでって……」
言葉を濁したナナシに向かい、女の子達は畳みかけるように話しかける。
「だってここ、ケーキバイキングだし」
「せやなぁ」
「ナナシさん、おごってくれるって約束だったよね」
「その通りや」
彼女達の言葉はもっともだ。フェミニストとして流行りの店を選び、食べ始めた彼女達の可愛い笑顔を見られたのも想定の範囲内だった。
だが……それにしたってこれは……
……食べ過ぎではないだろうか。
ナナシは空になった皿を見つめる。
店員がすぐに回収していくので、手元に残っているのは数枚だが、食べ終えた皿はすでに十枚は超えているはずだ。
「……ドロシーちゃん、それ何皿目?」
「さあね~? ん~この木苺のタルト、ほんと美味しい!!」
ナパージュと呼ばれる、透明な砂糖のゼリーがたっぷりとかかったタルトを頬張るドロシーは、戦闘時の恐るべき魔女の表情など微塵も感じさせない。
その姿は実に幸せそうで、常ならば微笑ましい。
……けど、あの量やもんなぁ……。
「次トライフルだって! もらってこよっ」
新しく追加された品を目ざとく見つけ、ベルが自分の体の大きさぐらいの皿を抱え飛んでいく。
あの小さな身体のどこに収まっているのか。普通の人間と張り合う以上の彼女の胃袋にナナシはただただ驚く。
……アルちゃんの前では、もしかして我慢しとるんやろか……。
「どうせお金を払うなら、元を取らないともったいないよね!」
カチャカチャとトングを動かしながら、スノウが笑顔のまま皿に次々と新しいケーキを載せていく。
慣れた様子の手つきは、まるで歴戦をくぐり抜けてきた戦士のようだ。
……君はお姫さんやろ。何当たり前みたいに庶民臭いこと言うてんの……。
ナナシは、完全にアウェイである。
想像を遥かにしのぐスピードで、沢山の種類のデザートを平らげていく彼女達の頭からは「太るかも」なんていう懸念は、完全に忘れ去られているように見える。
かといって、親切心で「量を気にしたらどうか?」などと忠告したら、物凄い勢いでどやされるに決まっているのだ。デリカシーが無いとかかんとか。
「ドロシー! ドロシーの好きなパンプキンパイ入ったって!」
「ホント? よーし、お代わり取ってこよっと!」
「あ、ベルの分もおねがーい!」
「はーい!」
悶々と考えているうちに、また一人軽やかに席を立ち、ほかの面々も次から次へと器を空にしていく。
「……女の子って、皆こうなん?」
ぼやきにも似たナナシの呟きは、かしましいお店のざわめきに飲まれていくのだった。
END
そういえば女の子全員とナナシの絡みはないなと思い、書いてみました。
秋はケーキバイキングが美味しい季節です。
2013.10.18
『思案と不安 ~潜入前~』
「パルトガインの位置はわかったとしてー……」
古い地図の上に描かれた小さな島を、ナナシの指がすっと指し示す。
「問題は、どうやって乗り込むかね」
偵察から戻ってきたドロシーの報告の後、一同はアランとナナシが手に入れた地図を囲んで話し合っていた。
「エドの魔法の絨毯はどうだ?」
「絨毯……って、マジックカーペットのこと?」
「そ! ヒルド大陸に渡るとき使ったじゃん! ここからパルトガインまでそんなに距離ないみたいだし、いけるんじゃねぇ?」
おお、と数人が期待の眼差しで彼を見るが、エドは申し訳なさそうに言う。
「……実は先程の戦闘で、カーペットが焦げてしまいまして……」
「え、マジ?」
「ああ、もう真っ黒焦げやで」
「そこまでじゃありませんよ!! しかし普段の状態でしたらともかく、この人数では心許ないかと…」
ナナシに噛み付きつつ頭を垂れて答えたエドに、アランがしみじみと言い放った。
「……役立たず!」
「あ、ひどい!!」
「大体さっきも言ったが、もっと早く使ってりゃいいものを!」
「痛い! 痛い!」
「もうアラン、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
エドの帽子に拳をめり込ませるアランをスノウがなだめた。
「では、それ以外の飛行手段というと……」
バッボの呟きに、魔女の持つ箒に自然と視線が集まる。
「……ちょっと、まさか私のゼピュロスに掴まって行くってんじゃないでしょうね。無茶言わないでよ! 店員オーバーだわ」
「……だよなぁ」
「修練の門の時だけで十分よ! こんな大人数!」
辟易した様子で続けたドロシーに、一人スノウだけがぽかんと疑問符を浮かべる。「えーっとっスね…」とジャックが説明した。ディアナの元で捕まっていた彼女だけ、リリスの作った不思議な東京には訪れておらず、あの空の珍道中を知らないのだった。
「ドロシー、偵察してきた場所で、アンダータに使えそうな場所はなかったのか?」
「ごめん……上陸する前に大砲で狙われちゃったから……近くの海までは飛べることは飛べるけど……」
「ワープした瞬間、海にドボン、だな」
言葉を継いだアランに「そういうこと」とドロシーが頷く。
誰ともなくため息が漏れる。しかし、そこでナナシが立ち上がった。
「こうなったら、船で海を行くしかあらへんな」
「船?」
「……というと?」
皆の注目を浴びたナナシは、勢いよく拳を掲げる。
「オーソドックスにイカダ作りや!!」
「イカダぁ?」
「せや! 海を渡るっちゅーたらイカダやろ!」
「でも、さっきも言ったけど、あの島は大砲で……」
「よーし、善は急げや! 早いとこ乗り込んで奴ら倒さなあかんし、早速とりかかるでー!」
「お、おー!」
「まずは材料集めやー!」
ドロシーがまだ話そうとしているにも関わらず、ナナシはギンタ達を促し準備を始めてしまう。
「こら!! 人の話を聞きなさい! ちょっと! そこのスケベ男!!」
もはや強引に結論となってしまった。子供達と一緒に木のある場所に走っていってしまったナナシにドロシーは悪態を吐くが、「諦めろ、魔女」という声に横を向いた。
「……アラン」
「今はとにかく、状況を知るのが先決だ。敵がアルヴィスを狙っている以上、どのみち奴らとの戦闘は避けられねぇ」
「そうだけど……」
アランの動きにつられ、ドロシーは離れたところで苦しそうに呼吸を繰り返すアルヴィスに目を遣る。額に滲む汗を、ベルが懸命に拭っている。
ゾンビタトゥの進行を止める方法がない今、アルヴィスに付けられたゴーストARMを解除する方法を探るためにも、敵の本拠地に乗り込む以外彼らが取る手段はない。
だが島へ上陸するのに、イカダというのは心許ない。それはアランも解っているらしく、
「あいつは腐っても盗賊の頭だろ? あれだけ自信満々ってことは、潜入用のARMぐらいあるんじゃねぇ?」
「だと良いけど……どこまで上手くいくか」
取り成すように続ける彼に、ドロシーは呆れ半分、不安半分でぼやいた。
そんな彼女を見たアランは、イカダ作りに取り組む面々を眺めながら、彼女の肩に手を伸ばす。
「ま、何とかなるだろうよ」
根拠のない言葉ではあったが、ぽんと肩に置かれた掌に、ドロシーはほんの少し固い表情を和らげた。
彼女の体から強張りが取れたのを感じ、やれやれだ、と言いたげなポーズを取りつつ、アランは自慢の腕力を発揮すべくギンタ達の元へと向かう。ドロシーも呆れた表情は崩さずに、すでに作業を始めている皆を手伝いに行く。
……数十分後、ナナシが取り出したタコの被り物に、さらに呆れの増した顔をする彼らの姿があった。
END
パルトガイン潜入前の一コマ。ドロシーとアランの関係性をほんのり書きたいと思いつつ、中途半端にギャグな内容です。この後宝石シリーズの「ガーネット:落つる陽」に繋がる感じです。
あのタコ型イカダは本気でルベリアの面々が使ってたとは思えませんが、「何も無いよりマシか」ということで使ったんじゃないかと思います。
2014.3.8