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  質問:1万ピューター入りの財布を見つけました… / 不戦勝 / small tempest / 変わったこと / 苦手な苦いもの /

  彼の日常 / ex. ベリル:小さな繋がり / 君の世界 / 誤解 / 気付けば、息をするように /

  追跡者たち / 失われた人 / 冷たい海ex. 親友の言葉 / His songs / reverse meaning /

  涙に染まる雨ex. 密約 / Hurry up !! / 僕に出来ること IFver' / 質問:1万ピューター入りの財布を見つけました…(チェス編) / 信頼の形 /

  First greeting / 親子の語らい / 誤解Ⅱ / アイソトープのささやかな疑問 / a draw /

  team / 涙に染まる雨ex. いつか / 叶った約束 / 冷たい海ex. 変化した関係 / 涙に染まる雨ex. 密約Ⅱ /

 

 


 

 

 

『質問:1万ピューター入りの財布を見つけました。どうしますか。』

 

 

 

「でっかい声で『財布落とした奴いるかー!?』って聞き回る」

「持ち主ではない複数の人が『自分のだ』と言って来たらどうするんだ」

「そん時は…んージャンケン?」

「最悪だ……」

「そぉ~っと拾ってしばらく見たら、そのまま落ちていた所に戻すっスね……」

「根性ねぇ~」

「サル」

「サル関係ないっス!」

「貰う」

「即答だ」

「さすがドロシー」

「落とした奴が悪いのよ。その気になれば1万くらいすぐ手に入るし、困るもんじゃないでしょ」

「容赦ねぇ……」

「中身見て、汚い金やなさそうやったら貰うな」

「汚い金だとどうして駄目なんスか?」

「ヤクザさんや、ルベリアみたいなギルドの人間のかもしれんやろ。そんなん持ってたら、自分が持ち主倒して盗ったみたいやん? 抗争沙汰はごめんやからな」

「なるほど~……ってわかるのか?」

「ほどんど勘やね。大体当たるけどな」

「周囲を見渡して、持ち主がいなさそうだったらお店に預ける」

「……まじめね」

「それが普通なんだ」

「私もアルヴィスと同じかなぁ。周りの人に聞いて、それで駄目だったら店員さんに渡す」

「メルへヴンって交番はないのか?」

「コーバン?」

「んーと、落とし物係みたいなもん」

「近くのご婦人方に『失礼…マダム…これは貴女のですかな?』と尋ね、違うようじゃったらそっと懐にしまう」

「お前も貰うのかよ! 紳士のくせに」

「聞き捨てならんなギンタ君。失くし物に気付いたマダムが来たらすぐに差し出せるよう、預かっとくだけじゃ」

「懐ねーじゃん」

「ワシの意見にケチを付けると言うのかー!」

「まともな回答してるのが、スノウとアルヴィスしかいねぇじゃねぇか。全く…」

「アランさんは?」

「…………貰うな」

「え」

「でもって、久しぶりに旨い酒を飲む」

「使ってんじゃん!!」

「オッサンもかいな!!」

「……もしかして、六年前時々連れてってくれたお店のお金や、こないだ御馳走してくれたのも…」

「いつもじゃねーよ! そう何回も拾えるか!」

「じゃあ拾った時は使ったんですね。誰かのお金を!! 見損ないました、アランさん!!」

「ちょっとぐらいいいじゃねぇか! 兵士の給料って安いんだよ!」

「何か言ったぁ? アラン?」

「いや、何でもねぇ…」

「信じてたのに!!」

「お前は落ち着け、アルヴィス!!」

「不倫現場を目撃された夫みたいね」

「いつからそんな話になった!!」

「気付かなくってごめんねぇ? エドに『アランは十分お金あるみたいだから、お小遣いしばらく渡さなくていいよ』って報告しとく♪」

「やめろーーーー!!!!」

 

 

 

 

完。

 

 

 

アランさん、お金管理されてるのでしょうか(笑)

演技派なアルちゃんに、自分でも書いていて吃驚です。

 

 

 

 

 


 

 

 

 『不戦勝』

 

 

 

「アルヴィス! 腕相撲しようぜ!」

「断る」

「何でだよー!!」

「お前みたいな体力しか取り柄のないバカに、敵うわけないだろ。異界の住人だし」

 

 

 かなうわけないだろ……かなうわけないだろ……(リフレイン)

 

 

「やったぁーーー!! アルヴィスに勝ったぞーー!!!」

「……ギンタ、思いっきりバカにされてることに気付いてるっスか」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

単純な所がギンタの良い所!アルは負け戦はしないと思います。

 

 

 

 

  

 


 

 

 

『small tempest』

 

 

 

  ある日のレギンレイヴ城。

 広間で女の子の姦しい争いが繰り広げられていました。

 

「ギンタは私の!」

「私のだってば!」

「ちーがーうー! 私の!」

「私のよ!」

「私の!」

「私の!」

 

 どうやらギンタに思いを寄せる二人の、いつもの口喧嘩のようです。

 

「「む~」」

 

 お互い一歩も譲らない二人。相手の顔を睨みつけて威嚇しています。

 

「ギンタと初チューしたのは私だもん!」

 

 だからギンタは私の!

 びしっと指をさして主張するスノウにぐっと気圧されたドロシー。しかし負けてはいません。

 

「私はギンタと初めて会った人間よ! アンタなんか何番目? ……ず~っと後じゃない!」

 

 コミックス片手に言い返すドロシー。反撃をくらったスノウ姫はうっと言葉に詰まります。

 

「しかもまだ14歳! 子供ね、コ・ド・モ♪」

 

 さらに畳み掛け挑発する魔女ドロシー。結構大人げないです。

 

「それだけ若いってことだもん! ドロシーなんか年齢不詳の年増じゃない!」

 

 しかし意表をついたスノウの攻撃。しかもさりげなく言葉が酷いです。

 

「私はアルヴィスと一つしか違わないわよ!!」

 

 年増発言を受けた17歳。思わずムキになってしっかり訂正します。

 

「「む~~~!」」

 

 収拾がつかなくなりそうな争いをまだまだ続けそうな二人でしたが、やけになったスノウの発言から事態は別の方向へと動いて行きます。

 

 

「……いいもん。そのかわり、アルヴィスは私が貰うから」

 

 

 くるっと後を向き、すたすた歩き去ろうとするスノウ。その肩を慌ててドロシーが掴みます。

 

「何言ってんの!? このアホ姫! 何でアルヴィスがアンタのもんなのよ!!」

「ドロシーはギンタ欲しいんでしょ? いいよ、あげる。だからアルヴィスは私の!」

 

 平然と返すスノウに、売り言葉に買い言葉と、ドロシーも言い返します。

 

「ダメよ、アルヴィスは私の! ギンタンはアンタにあげるから、アルヴィスを寄越しなさい!」

「いらないよ! ギンタなんか! ドロシーが持ってれば?」

「私だっていらないわよ! ギンタンなんか!」

「私だって!」

「私だってそうよ!」

 

 

「「む~~~~!!」」

 

 

 さらに睨み合いを続ける二人の背後で、金髪の少年の情けない声が響きました。

 

 

「……なぁ、オレ何かしたか?」

 

 

 

ー終幕ー

 

 

 

あまり突っ込まないで頂けると嬉しい作品です。ふと思いついた台詞から勢いで書いてしまったので…(そんなんばっかりだな自分)

ひねりのないタイトルにも突っ込まないで下さい(苦笑)

乙女二人の可愛い会話を少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

 

 

 

 

 


 

 

 

 『変わったこと』

 

 

 

「あ〜あ」

 

 何度目かの溜め息が口から漏れる。

 

「遅いね、皆.…..」

 

 腰掛けている布団にベルは足を投げ出した。

 レギンレイヴ領下の視察に出る、というアランの言葉に最初に興味を示したのはギンタだった。

 城下町? オレも行く! と彼が宣言するとじゃあオイラも! とジャックが続き。

 それなら私も! とスノウが加わり、おい観光じゃねぇんだぞと呆れたアランがぼやきつつも、はしゃぐ彼らを連れ出かけていった。

 私はパス、と肩をすくめて見せたドロシーは、ウィートのARM練習に付き合ってくると言って出かけた。

 ナナシは久々に本業らしい。明け方から城を空けていた。

 朝からベルは、アルヴィスと二人きりだ。

 

「……退屈かい? ベル」

 

 数時間前から同じ言葉を繰り返す彼女に、少し悪戯っぽくアルヴィスが問う。

 

「ううん!」

 

 勢いよくベルは首を振ると、下ろしていた羽を広げて上昇。

 アルヴィスの胸へと急降下。

 

「ベルは、アルさえいればいいの!」

 

 重力に引かれるまま、ぼすっ、と勢いにのって抱き着くと、彼の匂いに包まれる。

 何だかほんのり甘いような、優しい匂い。

 アルは結構甘いものが好きだから、そのせいかな?

 

「そうか」

 

 ……あれ?

 

 相づちを打ったアルの雰囲気が、いつもとちょっと違う。

 いつもならもっと、ほんわかとした笑顔なのに。

 今日はあまり色がない感じ。

 ……空気が冷たいせい?

 

「アル、ベルといるの、楽しくない?」

「ううん」

 

 不安そうな声で尋ねると、アルヴィスはいつもの優しい顔になる。

 

「オレもベルといるのは落ち着くし、楽しいよ」

 

 その言葉に、さっきまで不安な気持ちはかき消えて、えへへとベルはアルヴィスに笑い返す。

 アルヴィスも笑みを返すが、ややあってから少し笑顔の質を変えて言った。

 

「ただ……」

「ただ?」

 

「いつの間にか、大勢でいるのが当たり前になってたんだなぁって」

 

 喧噪のないこの静けさを、寂しく思う時が来るなんて。

 

 

 もうすぐ午後のお茶の時間。

 きっとそれまでには、皆戻ってくる。

 

「……ねぇアル」

「うん?」

「……お茶の準備、しよう!」

「……そうだね」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

当時執筆していた作品「涙に染まる雨」のシリアスさの反動でしょうか。

今回はシンプル!を目標に、久々にほのぼのなお話です。

肩に力を入れないで読める話を目指してみましたが.......ど、どうでしょうか(汗)

 

メルメンバーの家族的な雰囲気が大好きです。この話ではアルとべルだけですが、少しでもその空気が出せていたら嬉しいです。

そしてさりげなく名前が出てるウィートちゃん。「冷たい海」続編でもちょこっとですが出演予定だったりします。

  

 

 

 

 

 


 

 

 

『苦手な苦いもの』

 

 

 

「……笑うなよ」

「……笑ってないわ。ちょっと涙をこらえてるだけ」

「…………」

「ふふ……じゃあ、わさびはいけるの?」

「少しなら」

「かにみそは?」

「あれは理解できない」

「ウニは?」

「……微妙だな」

「おでんの大根」

「……物による」

「……っ……! ……っ……!」

「……いい加減声に出して笑ったらどうだ」

「いいえ! 耐えてみせるわ……ふふ……じゃあ青汁」

「嫌いだ。……そのメモ取るの、もうやめてくれ」

 

 

 

END

 

 

 

 

「優しさの魔法」で脱線したので没にした会話です。書いといてアレですが、メルヘヴンにおでんはあるのだろうか。

 

 

 

 

 


 

 

 

『彼の日常』

 

 

 

「アルヴィス! 入るぜ」

 

 夕食後、ノック早々に入って来た人物にオレはため息をついた。

 

「……ギンタ。返事をする前に入っては、ノックの意味がないだろう」

「いいじゃん、そんな変なことしてないんだし」

「常識の問題だ」

「いちいち細けーなぁ。それよりお前、何してんだ?」

「荷物の整理だよ」

「へぇ~、見てもいいか?」

「好きにしろ」

 

 質素な旅だからそんなに大したものはないのだけれど、アルミ製のカップ、小型のランプ、メルへヴン共通の硬貨といった少ない荷物を、ギンタは一つ一つ興味深そうに見ていった。

 

「これ肉か? 食ってもいい!?」

「お前、さっき食べたばかりだろう……」

 

 非常食の干し肉を手にした彼は期待の眼差しでオレを見る。

 

「構わないが、それは」

「いっただきまーす!」

 

 はむ、もぐもぐもぐ……もぐ……

 

「……あんま美味くないな」

「保存食だからだな。焙った方が美味しいぞ」

「よし、焙ろう!」

「今からか?」

 

 太るぞ、と言うと食べかけの肉を残念そうに眺めた。鞄に戻そうとするので釘を刺す。

 

「口付けたなら、ちゃんと最後まで食べろよ」 

「えー!」

「それが責任だろう」

「……オッサンに火のARMでも借りようかな」

 

 呟きながらポケットの中にしまったそれを、おそらく彼は半分の確率で忘れてしまうだろうと推測する。

 数日経ったらちゃんと食べたか聞くか、と自分の中で結論づけると、ギンタは今度は細いひもで結んで閉じている、小さな革袋を手に取った。

 

「この袋に入ってるのは何だ?」

「それは主に交易品だ」

「こうえき?」

「交易というのは商売のことだ。オレは仕事を持っているわけじゃないからな。旅の途中で手に入れためずらしい物とかを売って、路銀の足しにするんだよ」

「へぇ~開けていいか?」

「ああ」

 

 しゅるしゅると紐を解き、中に詰めていたものが机の上に転がされる。

 ここ数ヶ月大きな街を訪れていなかったから、袋の中身は思ったよりも充実していた。

 

「この葉っぱは?」

「それは手足の痺れに効く薬草だ」

「この指輪はARM?」

「それはただのアクセサリーだ」

「……こんなん趣味なの、お前」

「女物を付けるわけないだろ。貰ったんだよ」

 

 逐一聞かれるたびに、薄汚れたランプの硝子を拭きながら答え、中の灯心の補充を終えた頃。 

 

「これ何だ? すっげぇキレイだな」

 

 火屋(ほや)の扉を閉じて顔を向けると、ギンタは自身の瞳と同じ、緑色の石を手にしていた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

「瞳の記憶」の前の場面となる話です。メルと合流するまで、アルヴィスは旅してたんだよな~と、色々旅荷物を登場させてみました。

それにしても、アルヴィスは一体誰に女物のアクセサリーを貰ったのでしょう。そしてギンタが呆れたその形状とは一体?

 

 

 

 

 


 

 

 

『ex.ベリル:小さな繋がり』

 

 

 

「エメラルドは緑柱石の中でも、特に緑が美しいものなんだ」

「じゃあ、エメラルドって言わないもんもあるのか?」

「緑柱石自体は“ベリル”という名だ。緑以外にも青や黄色、赤色のものもある。有名なところだと……そうだな、藍玉がある」

「らん……ぎょく……」

「……アクアマリン、とも言う」

「アクアマリン!? へーー!! 青色なのにエメラルドの仲間なんだ!」

「エメラルドもアクアマリンも、同じ石だが色は違う。おそらく発色する成分が違うんだな。色にちなんで、それらを“グリーンベリル”や“ブルーベリル”とも呼ぶそうだ」

「へぇ~何かブルーベリーみてぇだな」

「………言うと思った」

「なんだよ、どういう意味だ?」

「お前の思考回路が単純ということだ」

「なにぉー!? でも何でブルーベリーとか、グリーンベリーって呼ばないんだろうな」

「ベリルだ」

「その方が同じ石ってわかりやすいのに」

 

「そうだな……でも名前がまったく違う方が、わかった時に何だか楽しくないか? “隠れた仲間”を見つけた、って感じで」

 

「……それもそうだな!!」

 

 子供みたいな表情で楽し気に微笑んだアルヴィスに、思わず自分も笑顔で同意すると、ギンタは湖水の色を思い浮かべ、

 

 

「アクアマリンか~」

 

 

 先程貰った石に目を落とし、鉱石の中の光を見つめた。

 

 

 

END

 

 

 

 

「瞳の記憶」の続きであり、宝石シリーズss「消えない絆」の伏線となるエピソードです。

アルヴィスのちょっとした時に見える素顔って、すごくいいなぁと思います。

 

 

 

 

 


 

 

 

『君の世界』

 

 

 

「……何で藍玉だとわからないんだ?」

「カタカナの方が有名じゃん!」

「かたかな?」

「あ、そっか。こっち“カタカナ”ねーのか。なんか名前がカクカクしてる感じの方がさ、わかりやすいというかメジャーというか」

「かくかく?」

「カタカナっぽいというか」

「……語感の印象みたいなものか?」

「そう! よくわかんないけどそんな感じ!」

「ギンタの言う“カタカナ”とは、文字なのか?」

「ああ! オレのいた世界では、あー、ほかの国のはよく知らないけど、オレのいた国ではひらがな、カタカナ、漢字の基本三種類の文字を組み合わせて、文章にするんだ」

「それは……ずいぶんと複雑なんだな」

「そうなのか?」

「オレたちが主に使うARM文字には、特定の文字の組み合わせである“単語”はあるけれど、文字の表記法は一つしかないから」

「へー」

「それぞれの地域や国に固有の言語はあるかもしれないが、基本はARM文字のみだ」

「ARMって文字にも付いてんの?」

「メルへヴンの歴史はARMと共にあるからな。……表記法が沢山あるということは、ギンタの国は古くから異国との文化交流が多かったんだろう」

「そういえば……漢字は中国から来てるとかなんとか、歴史の時間にやったな。オレが少し話しただけでそんなことがわかるって、アルヴィスってやっぱすげーな!」

「……色んなことに興味があるだけだよ」

「学者とか向いてるかもな!」

「……そうだな。戦争がない時代だったらな」

「あ……」

「……なくすなよ、それ」

「…………うん」

 

 

 

END

 

 

 

 

宝石シリーズ 「ex.ベリル:小さな繋がり」派生会話です。戦士であることしか許されない少年。ARM文字の設定はゲームからです。

※追記:改めて確認した所、ARM文字ではなくMAR文字です。記憶違いでした…。この話ではARM文字という設定のままにしておきます。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 『誤解』

 

 

 

「アランさん」

「おぅ、修行はどうだった」

「焦って、ナナシに八つ当たりしてしまいました」

「…─そうか」

「そしたら、ナナシに襲われました」

「……………」

 

 

 

END

 

 

 

時間軸はアニメルのゾンネンズ戦後。色々端折りすぎのアルちゃん。でも天然です。

このあと、アランさんはナナシに殴り込みをかけます。

 

 

 

↓殴り込みをかけるとこうなります。

 

 

 

「おいテメェ!! アルヴィスに何をした!!」

「な、何やねん! オッサン!!」

「誰彼かまわず手ェ出しやがって!! てめぇという奴はどこまでいい加減なんだ!!」

「いきなり何のこっちゃ!? アルちゃんに何かしたっけ自分!?」

「手前のしたことも覚えてねぇのか!! このクソったれ!!」

「あ、操られて襲ってしもたこと?」

「そこに直れーーーーーーー!!!!!」

「ちょ、意味ちがう!! 意味ちがうでオッサン!!!」

 

 

終幕。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『気付けば、息をするように』

 

 

 

「貴方のこと考えてるわ。どうしてくれんのよ」

 

 

 そう恨みがましく詰(なじ)ると、彼は得意気に

 

 

「それが惚れた弱みってやつじゃないか?」

 

 

 と笑った。

 

 

 

 ……こん畜生!!!

 

 

 その勝ち誇ったような顔がムカつく! その笑顔にときめいてる自分もムカつく!

 憮然とそっぽを向いていると、彼は可愛い袋に入ったクッキーを渡してきた。

 そんなものくれたって機嫌なんか直さないわよ! 食べるけど。

 え? ホワイトデー?

 

 ………ああ、忘れてた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

2010年ホワイトデー記念。Colors of happinessではドロシーにしてやられたアルヴィスなので、今回は逆に。

 

2010.3.14

 

 

 

 

  


 

 

 

 『追跡者たち』

 

 

 

「……あちゃあー」

 

 ひんやりとした冷気が充満する古城の中心、氷漬けになっている少女の前で不似合いな茶化すような声が上がった。

 

「犬が慌てて出てったからてっきり降参するのかと思ったら……まさかこんな手段に出るとはねぇ」

 

 こじ開けた扉をそのままにし、仮面を付けた二人組は凍った玉座に近付く。

 長い袖の男が、隣の幼い少女に尋ねた。

 

「死んじゃった?」

「生きてはいます。しかし時間がないことは確かです」

 

 大きな鞄を背負った少女は、氷の中の少女の手元にあるARMを見る。

 

「このネイチャーARMはかなり強力なもの。熟練の術者でも半日で心臓が止まるものです。それを城ごと氷付けにできるとは…やはりこのコ、なかなかの素質の持ち主のようですね」

「ふーん?」

 

 興味深そうに聞いていた男は氷を小突いてみる。

 手の甲で触れた感触は固く、冷たい。

 

「クィーンはその力に目を付けて、この姫サマを狙ってるのかな?」

「さぁ」

 

 男の疑問に、少女は無感動な口調で返した。

 

 

「どういう理由であれ、私たちはチェスの兵隊。出された指令が何であろうと、それに従うだけです」

 

 

「……固いぜロコちゃん。もっと気楽にいこうぜ~」

「ロコはいつもこの調子です、あとちゃんづけやめてください」

「でもどーする? オレっちたち火のARM持ってねぇもんなぁ」

「ハロウィンに連絡しましょう。彼ならいくつか持っているはずです」

「よし」

 

 城をかたどったピアスに手を当てて男は喋り出す。

 

「おいハロウィン、聞こえるか?」

『何だイアン。こっちはまだ宴の途中だぞ。つまらん用なら後にしろ』

「緊急の用件です、ハロウィン。貴方の持ってる火のARMを持ってきて下さい」

『一体何だってんだ?』

「姫サマが閉じこもっちゃったんだよ。氷の中にね」

『ほう?』

「時間が経てば経つほど彼女の命は危うくなります。早くこちらに来て下さい」

『まぁもう少し待て。そろそろファントムが来るからな。姫様を溶かすのはその後だ』

「死んでしまうと意味がないのですが」

『心臓が止まっちまう前には行くさ』

 

 

『それにしても酔狂な賭けに出たもんだ。あの男の影響かねぇ……』

 

 

 ヒュヒュヒュ……と不気味な笑い声を残して、通信は切れた。

 

 

「ちぇっ。オレっちだって酒飲みてぇのによ~」

「仕方ありません。ハロウィンが来るまで見張りを続けましょう」

「ん。りょーかい。あの犬が援軍を呼んでくるかもしれないしね」

「この短時間で私たちを倒せるほどの助っ人が見つかるとも思えませんが、念のためです」

 

 

 ロコの言葉を受けて、イアンと呼ばれた男は先程入ってきた扉へ向き直った。

 

 

 

「あの犬とオレっちたち。どっちが早いかな?」

 

 

 

 楽しそうに語る仮面の隙間から覗く目は、獲物を待つ獣のそれにも見えた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

スノウを見つけたイアン達の話。

 

2010.3.21

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『失われた人』

 

 

 

「そういえば、オメェと同じ事を言ってた奴がいたな」

「前に来た、ダンナって人か?」

「ああ、そいつもだが……」

 

 

 『オレ、メルへヴンが大好きなんだ!!』

 

 

「お前よりももっと小さいガキだった」

 

 

 『この世界を守りたいんだ!!』

 

 

「そいつ……今は?」

 

「いなくなっちまったさ…戦争で」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

一度やってみたかった、アル死亡?設定。死んだのかトム様に連れ去られたかは定かではありませんが、この話を聞いてギンタはチェスを倒す決意を強くするというもの。

このあと、死んだ筈のアルがチェス側で現れたりするのも面白いかもしれません。

しかしこの設定だとギンタを喚んだのは一体誰なんでしょう。…ガイラさん?(笑)

 

2010.3.21

 

 

 

 

 


 

 

 

『冷たい海ex. 親友の言葉』

 

 

 

「なあジャック」

 

 再度住民の救出に向かうナナシ達と、ドロシーが打ち合わせしているのを視界に入れながら、スコップを素振りして気合いを入れているジャックにギンタは呼びかけた。

 

「なんスか?」

「オレ……間に合うかな」

 

 らしくない発言に素振りをやめ、ジャックはギンタの顔を見る。

 スノウに抱かれたまま目を覚まさないアルヴィスを眺め、ギンタは続けた。

  

 

「オレ、アルヴィスがこんな風になるまで、苦しんでることに気が付かなかった。仲間だとか言ってんのに、アルヴィスが抱えてるものを知らなかった」

 

 

「そんなオレに、アルヴィスを助けることができんのかな」

 

 

 

 自責の念に駆られ、いつになく不安気な顔つきのギンタに、ジャックは朗らかに笑って言う。

 

 

 

「──大丈夫!!」

 

 

 

 「アルヴィスが喚んだのは、ギンタっスよ!」

 

 

 

 自信に満ちた笑顔に、思わず息を飲まれ

 

 

 

「寧ろ、ギンタじゃなきゃ駄目っス!!」

 

 

 

 屈託のない言葉に、ギンタは勇気を取り戻させられる。

 

 

「……ちゃんと連れて帰ってくるっスよ。オイラたちがアルヴィスの心を、しっかり繋げておくっスから!!」

「……おう!」

 

 

 向かい合い互いに笑みを浮かべて、二人は拳を交わした。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

「冷たい海」裏エピソ-ド。本編で出番の少なかったジャックの話。

個性溢れるメンバーの中、影も薄く当サイトでもないがしろにされがちな彼ですが、忘れちゃいけない大事な仲間!

友達思いでとてもいい奴だと思います…が…どうあっても注目されにくいのは。やっぱりサルなのがいけないのかなぁ(苦笑)

 

2010.3.24

 

 

 

 

 


 

 

 

 『His songs』

 

 

 

 森の奥から歌声が聞こえる。

 涼やかに鼓膜を震わせるメロディに、私は耳を澄ませた。

 

 アルは一人になるとよく歌を歌う。

 

 他の人や私が一緒にいる時は、恥ずかしがって歌ってくれない。

 だから一人で散歩に出て、風に乗って歌が聞こえてきた時は、私は少し寄り道をして帰る。

 

 離れた所から、そっとアルヴィスを窺う。

 草むらの向こうで生き生きと、楽しそうに歌うアルヴィスを眺めるのはとても素敵な気分。

 

 これは、私だけが知ってる彼の秘密。

 

 

「ただいまー! アルヴィス!」

「おかえり、ベル」

 

 歌が終わって少ししたら、私は何事もなかったように彼の許へ帰る。

 

「今日は遅かったね、何してたんだ?」

「あのね、小さなお花畑見つけたの! 今度アルを連れて行ってあげるね」

「そうか」

 

 歌を聴くたびに吐く、小さな小さな嘘。

 これからも暫く、私はこの小さな嘘を吐き続ける。

 

 

 いつか彼が秘密を知ったときの顔も、楽しみ。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

アルヴィスは歌が上手いと思います。多分メンバーの中で一番上手いと思います。

メルはキャラソンがないので、中の人つながりで低めの保志さんの曲を聞いて楽しんでいます。

 

2010.3.29

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 『reverse meaning』

 

 

 

「私、あなたのこと嫌いよ」

「……奇遇だな。オレも君のことが嫌いだ」

 

 

「………アルのバカ!!」

「話を振ったのは君の方だ」

 

 

「……今日はエイプリルフール、だと」

 

 

「……バレた?」

「勿論」

 

 

「私、あなたのことだーいきらい」

「オレも、君のことはだいきらい」

 

 

 

 

END

 

 

おまけ

 

 

「おい、ナナシ」

「ちょっと、そこのナンパ男!」

「アルちゃんにドロシーちゃん…何か用か?」

 

 

「オレは、お前のこと大好きだ」

「私も、あなたのこと大好きよ」

「へ!?」

 

 

「……ってことがあってな!」

「ふーん……」

「普段冷たい二人がそないなこと言うなんて………嘘でもめっちゃ嬉しいわ!」

「…ナナシ、今日エイプリルフールだぞ」

 

 

「……え……大嫌い……?」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

エイプリルフール記念大告白大会。ベタすぎる展開ですみません。そしてごめんね、ナナシさん。

 

2010.4.2

 

 

 

 

 


 

 

 

『涙に染まる雨ex. 密約』

 

 

 

「突然の訪問を失礼致します」

 

 ディメンションの魔力の発動を感じ取って数分、変声期を過ぎ少し低くなった声に、老人は床に大きく広がった裾を引きずり顔を向けた。

 

「お主は確か……この間ドロシーとともに来た……」

「……クロスガードに所属する、チーム・メルのアルヴィスと申します」

 

 薄暗い広間の入り口に立った少年は所属を名乗ると、丁寧にお辞儀をした。

 細い指の大半をダークネスが占める中、左手の中指に借り物のアンダータを填めている。

 

「長老、少しお時間を頂いても宜しいですか?」

 

 理知的なこの少年が、大した用もなく訪れるはずもない。

 

「……構わぬ。話しなさい」

 

 長老と呼ばれたカルデアの長は、訪問者を広間の中央に招き入れ続きを促した。

 

 

 

「門番ピエロ……あれはカルデアで造られたものですよね」

「うむ。そうじゃな」

 

 先日ドロシーが連れてきた面々の一人である異界の少年。

 少年らしい純粋さを持った彼を喚ぶために使われたARMは、ディアナが持ち出したもののうちの一つだ。

 カルデアでも数が限られているそれを、この少年はディアナから授かったクロスガードの老将より受け取り使用したという。

 

「異世界の人間を“喚ぶ”ARMが存在するなら、その者を“帰す”ARMも作れないでしょうか?」

「……“逆”門番ピエロか……」

 

 少年の意味する所を察し、長老はしばし思案する。

 

「本来力は一定の方向にしか働かないが…できないこともない」

「……それを作って頂けないでしょうか」

 

 

「お主が帰したい者というのは……あの少年か?」

 

 

 長老の問いに問われた少年……アルヴィスは頷いた。

 

 

「ギンタをこの世界へ喚んだのは、私です」

 

 

 明確な意志を持った瞳で、彼は続けた。

 

 

「私には、彼を元の世界に帰す責任があります」

 

 

 

「前大戦のあった六年前……異世界の人間であるダンナさんを、私たちは死なせてしまいました」

 

 

 前大戦の勇者との日々を思い返したのか、少年はわずかに表情を歪めた。

 

 

「あいつは……ダンナさんの息子であるギンタは、ちゃんと帰してやりたい」

 

 

 それ故の切実さを備えて、彼は決意を語った。

 

 

「……だから、お願いします」

 

 

 うつむけていた顎を上げ、自分を見返した少年に長老は答えを決めた。

 

 

「……他ならぬ其方の頼みだ。引き受けよう」

「……有り難うございます」

 

 

 礼を言った少年はそれまでと変わらない様子で……しかし、ほんの少しほっとしたように息を吐いた。

 そこに年相応の彼の素顔を見たのは、気のせいだろうか。

 長老は少しだけ、彫像のような顔の造作を緩めた。

 

 

「……お主の“それ”は、ディアナの作りしものだな」

 

 

 彼の手の甲から見える、全身を這うタトゥを指して話を変える。

 少年は口元を引き締めた。

 

 

「不死の命を得られるゾンビタトゥ……それはここカルデアで禁じられた秘術。ARMと共にディアナが持ち出したものだ」

 

 

 青い髪がわずかに下を向き、かすかに弱い表情を見せた。

 

「カルデアの民がしたこと……すまなく思う」

「……いえ」

「……あまり時間は残されておらぬぞ」

「わかっています。……ですが……」

 

 

「最後まで、オレは抗い続けます」

 

 

 残酷ともいえる警告をするが、少年はその見目に相応しい、曇りない瞳で答えた。

 

 

「……では」

 

 

 訪れたときのように、綺麗な所作で礼をすると彼はその場を後にする。

 通路の奥で気配が消えた。

 

 

 生来のものであろう、齢を重ねても真直ぐな眼差しが好ましいと思った。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

ドロシーに借りたアンダータで内緒のお願い事。「夢で見たスカイ・ブルー」でアルが逆門番ピエロを持っていたのはこういう訳です。

ゾンビタトゥが秘術かどうか、公式では定かではないですが、かなり高度の呪いですからきっとそれの類なんだと思います。

ゲーム設定から言えば、パンドラレコードに載っていたのではないでしょうか。想像ですが…。

 

2010.4.10

 

 

 

 

 


 

 

 

『Hurry up !!』

 

 

 

 ギンタはうんうん唸っていた。

 

 二度目の戦争はメルの大勝利に終わり、一同はスノウの故郷にいた。

 昼間には王による平和への宣言があり、城の大広間や厨房では晩餐会の準備が進められている。

 

「……どうしよっかな~」

 

 別れる前に、ギンタはずっと一緒にいたスノウになにか贈ろうと思っていた。

 最初は、メルへヴンに来る前に小雪がくれたチョコレートをあげようと思った。

 

「けど食ったらなくなっちまうし……」

 

 勇気の出るお守りのチョコと一緒になにか、形に残るもの。

 用意する時間はほとんどないが、妥協したくない。

 ギンタは滅多に使わない頭をフル回転させた。

 

 

 スノウの使うARM。

 氷。

 白い雪だるま。

 水のガーディアン。

 

 水、色。

 

「……あ!」

 

 慌ててポケットの中のものを引っ張り出す。

 貰ってから肌身離さず持ち歩いていた緑色の宝石と、それをくれた彼の説明を思い出す。

 

 

『エメラルドもアクアマリンも、同じ石だが色は違う。おそらく発色する成分が違うんだな』

『メルへヴンでは確か……エルトタウン近くの炭坑とかで採れると、聞いたことがある』

 

 目の色を変え、ギンタは走り出した。

 

 

 

 

「ナナシ、アンダータ貸して! 今すぐ貸して!」

「い、いきなり何やねんギンタ。ええけど。ほい」

 

 狼狽えつつ手渡されたアンダータを、ギンタは待つのも焦れったいように指に通す。

 

「これってエルトタウンにも行けるよな!?」

「確かそこもアンダータの範囲に入っとるな」

「よっしゃ!!」

「でも一体何しに行くん? エルトタウンは別に観光都市でもないで……」

 

 

「……ってもうおらんし」

 

 

「……あ。ドロシーちゃんに用事頼まれてたの、どないしよ」

 

 スノウとの料理対決用の食材を調達して来なさい! と体のいいパシリにされていた。

 必要以上に消費されるであろう大量の食材は、アンダータがないと運ぶのにけっこう手間がかかるのだが。

 

「まぁええか。歩いてこ」

 

 久しぶりに運動運動~と、いつもの暢気な調子と足どりでナナシは城下町へと向かった。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

「消えない絆」の裏エピソード。この後ギンタは洞窟で奮闘することになります。

「これもちげー!」「これ赤色だし!!」「だー!! 出てこいよアクアマリン!!!」

そして猛ダッシュで帰ることになるのです。

 

2010.4.11

 

 

 

 

 


 

 

 

『僕に出来ること IFver'』

 

 

 

「……正直な、オレはもう、いつ死んでもいいと思ってるんだ」

「! アルちゃん、それは……」

「戯言、だろ?」

 

 だから真剣に受け止めるなと笑う瑠璃色の瞳が、それ以上の追求をやめてくれと語っていた。

 

 

「戦争は再び起こったが」

 

 

 淡い光を湛える月を仰ぐ。

 

 

「希望を託せる相手も見つかった」

 

 

 横顔には、後悔も寂寥もない。

 

 

「……なのに何故だろうな……」

 

 

 晴れやかにも見える表情でいた彼は、ふいに薄く笑い、悲しげに呟いた。

 

 

 

「……怖いんだ」

 

 

 いつ変わり出した自らの手で、誰かを傷つけるかわからない。

 痛みに心が揺れるたび、この身が皆と同じ、熱く脈打つのものだと無性にたしかめたくなり。

 裡に響く音に救いを求め、耳を澄ます弱さを生きている証と言い聞かせる。

 

 

 

 そうして自分は未だ生にしがみつく。

 なんて、矛盾しているのだろう。

 

 

「……アルちゃんだけが弱いのとちゃう。人間やったら当たり前のことや」

 

 

 どうにもならない無力さを感じながら、ナナシは彼の華奢な両肩に手を伸ばす。

 肩先に触れる体温を感じながらアルヴィスは微笑んだ。

 

 

「そうか……だったらオレは、まだ人であるんだろうな」

 

 

 初めて、彼の泣きそうな顔を見たと、思った。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

あまりに台詞が重くなってしまったので、没にした展開です。

私の中の別名は「鬱ver'」。…酷いですね(苦笑)

 

2010.4.23

 

 

 

 

 


 

 

 

『質問:1万ピューター入りの財布を見つけました。どうしますか(チェス編)』

 

 

 

 ファントムたちの場合

 

「財布? 捨て置くね。買い物なんてしないし」

「放っておきますね。我らに必要な金は拾わずとも、十分にありますので」

「いいい一万ピューター!? も、貰うわよもちろん!! それを使って、ファントムへのプレゼントを買うの!!」

「僕への愛は拾い物なんだね……キャンディス……」

「ち、違うわよ!! 放っといたら誰かの肥やしになる資源を有効利用するだけ!!」

「弁解になってないよ」

「ああ、ほら!! ロランはどうなの!?」

「ええ!? 僕ですかぁ?

 そうですねぇ……とりあえず、おまわりさんに届けますかねぇ」

「……おまわり……?」

 

 

 

 ロドキンファミリーの場合

 

「そりゃあ勿論貰うわよ!! それでジャック君を落とすための水着を買うの!!」

「姉ちゃん、まだあんなサルに気があんのかよ…」

「失礼ね! ジャック君をバカにしないで!! ワンピースがいいかなぁ? それとも大胆にハイレグビキニかなぁ?」

「付き合ってらんねーや……。俺だったら……こう、ぱーっと使いてぇなぁ。オヤジは?」

「………貯蓄。」

 

 

 

 フラット三姉妹の場合

 

「い、いっちまん!? 絶対もら…」

「ダメだよベーちゃん。カペル兄が言ってたでしょ。落とし物があったら届けなさいって」

「あ……そうだった……」

「もらう~の~だ~め~」

「わかったよ……ちぇ。でもどーする? これ」

「……近くの人に渡そうか?」

「ねこば~ば」

「ええ!? アーちゃん、どこでそんな言葉覚えたの?」

「もらっちゃ駄目ってツェーが言ったばかりだろ!」

「ネコちゃん……だめ?」

「うん、だめ」

「……あの辺にいるオッサンにでも渡すか」

「でもちょっと離れてるよ。坂の下だもの」

「……ネコ……」

「よっと! おーいそこのオッサーン!!」

「あ!! ベーちゃんまたそんなトコ飛び降りて!! パンツ見えちゃうって~!」 

「……ネコ……ベーのパンツ……ウサちゃ……」

「それはもういい!!!」

 

 

 

 パウゼの場合

 

 (黙って拾い上げ中身を探る)

 

「……ちっ、はした金だなぁ」

 

 (近くをウロウロしてる通行人)

 

「ああどこ行っちゃったんだろ~オレの財布…」

「……………」

 

 (しばらく男をじっと見るが、諦めて彼に近寄る)

 

「おい、これアンタのか?」

「え?」

「そこに落ちてた」

「た……助かった!! ありがとうボク!!」

「ボクじゃねぇ!! オレはこう見えて大人だぁ!」

 

 

 

 アッシュの場合

 

「え? そりゃあ勿論届けるさ。そうでないと子供の見本にならないからな!」

 

 

 

 エモキス(とダンダルシア)の場合

 

「もらうしー当たり前だけどー」

(うちのマスターはがめついなぁ……)

「そのお金でお菓子の家をーもう一個買うしー」

(……あれで足りないと言うのか…)

「あと美しさを保つためのースキンケア用品を買うしー」

(……そろそろ私のボディもリペア(修理)して欲しい…)

「何か言ったぁー? ダンダルシアー」

「いいいいいいいえ何も!!!」

 

 

 

 

END

 

 

 

妙に楽しかったSSです。オチなし意味なしですが、ありそうだと思って頂ければ十分です。

出てない他のメンバーも、時間が出来たら書きたいなぁ。

 

2010.4.29

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 『信頼の形』

 

 

 

「時々忘れてしまうが、お前はまだ子供なんだよな」

 

「……何だよいきなり。バカにしてんのか?」

「違うよ」

 

 不満気に聞いたギンタに、アルヴィスは苦笑いをする。

 

 

「お前は期待に予想以上に答えてくれるから、こっちが忘れてしまうだけだ」

 

 

 目を丸くしたギンタに、アルヴィスは自分を責めるように続けた。

 

 

「つい多くを求めてしまう。お前に負担がかかっているというのに」

 

 

「……それってつまり、信頼されてるってことだよな」

「……え?」

「だったらオレ、もっと強くなる!

 強くなって、オヤジを超えるんだ!!」

「…………そうか」

 

 

 快活に笑うギンタに、アルヴィスは目の中の光を柔らかいものにして、口の端を上げた。

 

 

 

 

END

 

 

 

無意識に大人であるダンナとギンタを比べてしまうアル。捉え方の枠組みを超えていくギンタ。

ギンタの強い所は、考え込まずに真直ぐ行ける所だと思います。

 

2010.5.5

 

 

 

 

 


 

 

 

『First greeting』

 

 

 

「……なぁ、落ち着いたところで、そろそろ自己紹介せぇへん?」

「自己紹介?」

「今日は一日テストで、何やバタバタしとったやろ? ギンタ達はともかく、自分は」

 

「そこの君とは初対面やし」

「………」

「……そうだな、このメンバーでこれから戦っていくんだもんな!」

 

 

「ほんじゃ改めて! オレはギンタ! 異界の人間だ。そこにいるアルヴィスに、門番ピエロで喚ばれた!」

「門番ピエロ?」

「異世界の人間を喚び出すARMだ。メルへヴンでも知る者は少ない」

「そんな珍しいARM、アンタどこで手に入れたの?」

「……答える必要はない」

「コイツはオレのARMバッ……」

「ギンタの主人、バッボじゃ!」

「誰が主人だ、このケンダマ!」

「ワシが喋っとるんじゃ! 家来は黙っとれ!」

 

 

「オイラはジャック! パヅリカで農業をやってたっス。多分……ネイチャーARM使いっス」

「ただのサルじゃなかったんだ」 

「……」 

「何やねん、その多分って」

「じ、自分でも未だによくわかんなくて……」

「自信もてよジャック!」

「そうだよ!」

「私が特訓してあげたんだから。ウォーゲームで恥を晒したら、承知しないよ」

「ひぃー!」

 

 

「えーと。私は、レスターヴァの第一王位継承者、スノウです」

「そして私は、スノウ姫の忠実な僕、エドワードです」

「そうそう、こん中にオッサンが入ってるから」

「オッサン? 誰やそれ」

「ナナシさんは会ったことなかったね。私のもう一人の従者のエドワード。本当はアランって名前なんだけど」

「え? 犬と人間が、一緒?」

「呪いで合体してるみたいよ。犬人間ってやつね」

「ビックリしたろ! アルヴィス?」

「……よく知ってる」

 

 

「私はドロシー、カルデア出身の魔女よ」

「……聞いたことがある」

「へぇ、なんて?」

「悪名高い、魔女だと」

「……ふぅん。あながち外れてないねぇ」

「そ、そないに恐ろしい女の子やったんかいな……」

「エド、確かドロシーのこと、ドロボーとか言ってたよな」

「ななな何のことですかなギンタ殿!?」

「ギンタンのことが気に入ったから、ゲームに参加しまっす!」

「むぅ……」

「ひ、姫様……」

 

 

「自分はルベリアのボス、ナナシや。こないだのチェスの襲撃で殺された、仲間の仇をとるために参加する。よろしゅーな」

「盗賊~? 胡散くさ~」

「………」

 

 

「……アルヴィス。クロスガードだ」

「氷の城で途中から入って来たのは、アンタだね」

「……ああ」

「ええ!! お前あそこにいたのか!?」

「にぶいお前は気付いてないと思うがな」

「むっかぁー!」

「私、あなたのこと覚えてるよ! 六年前、エド達と一緒にいたよね」

「……ああ」

「ずっと戦ってきてくれたんだよね。ありがとう!」

「………」

「ちょっと! アルヴィスはベルのなんだから!」

「え、えっと……あなたは……」

「私はベル! アルヴィスのパートナーよ!」

「妖精とは……珍しいですな」

「アルをいじめたら許さないんだからね。ちっこいの!サル!」

「さ、サル!?」

 

 

「オッサンとバッボも入れて八人。メルヘヴンを救う8戦士で、メルだ!」

 

 

「これからよろしくな、皆!」

「はい!」

「うむ」

「……」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

メルメンバーの初顔合わせ。協調力のないアルヴィスの「…」が多くなった会話劇です。

個人的にギンタの「こん中にオッサンが入ってるから」がお気に入り。説明になってないよ!

 

2010.5.6

 

 

 

 

 


 

 

 

『親子の語らい』

 

 

 

「じゃあな! ゆっくりしろよ、お前ら」

「また明日っス! ギンタ!」

「おやすみ、ギンタ」

「ギンタ! お休み!」

 

「ああ! 皆、お休み!」

 

 仲間たちと別れ寝室の扉を閉じると、ふぅとダンナが満足そうに息を吐きながらベッドに腰を下ろす。

 

「やれやれ、久しぶりに食った気がすんな~」

 

 酒でほんの少し火照った顔を見ながら、ギンタも反対側にあるベッドに転がった。

 

「オヤジは今までバッボの中にいたんだよな。そのとき意識はあったのか?」

「よくわかんねぇんだよな~……お前の顔がある時、急に見えてさ」

 

 カルデアのじーさんが魔法をかけた時かと、あぐらを組みながらギンタは考える。

 

「そっからは殆どバッボと一体化(シンクロ)してたな。自分の意識があるっつーより、バッボの目を通してお前を見てる感じだった」

「ふーん」

 

 ダンナの説明に、ギンタはわかっている様なわからない様な表情で返事を返したが、ダンナはその時の感覚を思い出してか懐かしそうに笑う。

 

「……母ちゃん、どうしてるかな」

「きっと泣いてんな」

「やっぱそうかな」

「あいつ、お前と一緒で泣き虫だからな」

「泣き虫じゃねぇよ! オレ、こっちに来てから強くなったんだぞ!」

「………そうだな」

 

 憤慨するギンタに、ダンナは静かに同意した。

 

 

「マジでビックリした」

 

 

 噛み締めるように言うさまに、ギンタは思わず言葉を忘れる。

 六年振りの笑顔が、自分を見ていた。

 

 

 

「来いよ、ギンタ」

 

 

 

 広げられた、腕。

 父の大きな胸に、ギンタは飛び込んだ。

 

 

「……ずっと死んだと思ってたんだぜ」

「俺もだ。なんせ一度は死んだ身だからな」

「バッボのお陰だな」

 

 ギンタのくぐもった声に、ダンナはにかっと笑いながら、昔と同じように彼を抱き締める。

 肉体をオーブに奪われ、意識だけバッボの中にいたダンナには、彼がどれだけギンタを信頼しているか、ギンタがどれだけ彼と心を通わせているかが、手に取るようにわかった。

 互いが互いを一部のように思い、シンクロしているのかが直に伝わってきて、途中から目覚めたダンナ自身も、二人とシンクロしているようだった。

 それ故、知らぬ間にお互いをずっと感じていたことになるのだが、二人は力強く抱き合った。

 

 

「……ギンタ、わかってるな」

「……うん」

 

 トーンの変わったダンナの声に、ギンタは頷いた。

 

「オレたちは元の世界に帰らなきゃならねぇ」

「うん」

 

 いずれ来るであろう、仲間たちと大好きな世界との別れを考えて、二人はしんみりとするが、ふとダンナがぐしゃぐしゃと頭を掻き嘆息する。

 

「にしてもその方法がなー」

「それなんだけどさ、」

 

「バッボのストーンを使おうかと思ってんだ」

 

 

 ギンタの手元にあるのはあと一つ。

 オーブの残した、八つ目の穴に填まる最後のストーン。

 

「門番ピエロの逆バージョンみたいなやつを考えればさ、来た時みたいに帰れるんじゃないかな」

「なるほどな。想像で創造できるバッボなら、そいつも作れるってわけか」

 

 

「しかしバッボか~。あいつにもビックリしたな~。ファントムが使ってたときは悪の権化みたいだったのによ、今じゃただのオヤジじゃねーか」

「カルデアの前のじーさんの意識が入ってんだって」

「カルデア! お前カルデアにも行ったのか?」

「ああ!」

「オレは行ったことねぇからなぁ……どんな国だったんだ?」

「ええと……」

 

 近い未来にある寂しさは忘れて。

 六年ぶりに再会を果たした親子の話は、途切れることなく夜更けまで続いた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

平和が戻った日の夜、ダンナと。ギンタとバッボとダンナという、不思議な三人の関係を自分なりに掘り下げつつ書きました。

バッボさんを含めた三人での会話もいつか書きたいです。

 

2010.5.14

 

 

 

 

 


 

 

 

 『誤解Ⅱ』

 

 

 

「前から気になってたんだが、アンタは何でそんなに女が好きなんだ?」

 

「何でって……男なら自然の摂理やと思うけど」

「そういうことではない」

「アルちゃんは好きやないの?」

「好きとか嫌いではなくて……暇さえあればナンパに繰り出す心境が理解できないんだが」

「男に生まれた身としては、可愛い女の子に囲まれてウハウハしたくならへん?」

「……別に」

「何や、つまらんなぁ……は!」

 

「もしかしてアルちゃん、“こっち”の気があるんか!?」

「なっ……!?」

 

「考えてみたらそうや! フォルトちゃんに告白されておったしのぉ!

 そーいう趣味やったんか……きゃあ~ヤラシイ♪」

 

「~~~ふざけるのも大概にしろ!! オレだって女が好きだ!!!」

 

 

 ざわっ……

 

 

「あ……」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

乗せられてしまったアルヴィス。この後真っ赤になって逃げるか、ナナシをふっ飛ばします。

フォルトはゲーム「カルデアの悪魔」のゲストキャラです。

彼といいトム様といい、アルちゃんは妙に男からモテてますよね。本人としては嬉しくないだろうな…周りからしたら面白いだろうけど。

 

2010.5.20

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『アイソトープのささやかな疑問』

 

 

 

「ギンタ、私たちのどっちが好きなんだろ」

 

 時々見る夢の中。別の世界に住むもう一人の自分に、スノウは問いかけた。

 それは幾度となく沸いた疑問で、向き合う小雪も首を捻る。

 

「イマイチ態度はっきりしないし」

「ドロシーにもデレデレしてるし」

「ウィートちゃんにもモテてるし」

「あーいうの、『ゆうじゅうふだん』って言うんだよね!」

 

 本人が聞いたら身も蓋もない、辛辣な評価を二人は述べる。

 それだけ自分たちの思い人は魅力的で、誰に対しても平等なのだ。

 だから、こんなにも焦がれる。

 

 

「ねぇ、もしさ、ギンタが私たちの両方を好きだとしたら………」

 

 

「これって二股?」

「…………」

 

 

 無いとも言えない可能性に、二人はしばし黙った。

 

 

 

「……ギンタに、聞かなきゃね」

「うん。必要とあれば、お仕置きもしなきゃね」

 

 熱の冷めた、目の据わった顔で頷き合う。

 そんなお互いの顔が目に入り、二人は思わず吹き出した。

 

 

「……うふふ!」

 

 

 立場も境遇も違う少女は、そっくりな顔で笑った。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

当サイトにしては珍しい毛色のタイトル。アイソトープは言わずと知れた同位体の意です。

私の中では、スノウはどちらかと言うとおっとり。小雪は好奇心旺盛で明るい、といった印象があります。

 

2010.5.30

 

 

 

 

 


 

 

 

 『a draw』

 

 

 

「ねぇ、ギーンタ!」

 

 唐突に目の前に迫った小雪の顔に、ギンタは本能的に後ずさりした。

 笑っているんだけど、なんか怖い。

 スノウが怒った時の笑顔に似ている。

 

「ギンタ、向こうでスノウとキスしてたでしょ?」

「……うぇえ!?」

 

 一瞬いつのことだよ、と思ったがすぐに思い出した。

 氷の城でスノウを溶かした時、落ちてきた彼女とあろうことか唇が重なってしまったのだ。

 ちなみにあのキスは、ギンタにとって正真正銘のファーストキスである。

 

「いや、あれは弾みというか、なんというか……」

「ふーん、ギンタは弾みでキスなんかするんだ」

「ち、違うって! えーと……驚いてよく覚えてないっつーか…」

「ふ~ん、驚くほど嬉しかったんだ」

「ち、ちが……」

「嬉しくなかったんだ?」

「違う!! 違うけど!! 嬉しくなかったわけじゃねーけど、だから!!」

 

 逐一言葉尻を捕らえられ、ギンタはもどかしげに頭をぐしゃぐしゃ掻き回した。

 

 

「……スノウとキスしたのが、嬉しくなかったわけじゃないけど」

 

 

 寧ろドキドキしたけど。

 

 

「お前のこと思い出したら、なんだか悪い気もしてさ」

 

 

 理由はよくわからないんだけど。

 

 

「……何か、ごめんな。はっきりしなくて」

 

 

 スノウも小雪も、二人とも大好きなんだ。

 

 

 比べることなんて、出来やしない。

 

 

 

「……もういいよ。許してあげる」

「ホントか!?」

 

 

 ぱっと生気を取り戻し、顔を上げたギンタの唇を、瞬時に小雪は掠め取った。

 

 

「これでおあいこ!」

 

 

 満面の笑みを浮かべた小雪の行為に、ギンタは大口を開けて真っ赤になった。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

「ss.アイソトープのささやかな疑問」の後日談のつもり。この二人はもう恋人通り越して夫婦な気がする。

 

2010.6.12

 

 

 

 

 


 

 

 

『team』

 

 

 

「……そういえば言ってなかったわね」

「……何を?」

 

 

「有難う」

「?」

「ギンタンをこの世界に喚んでくれて」

 

 

「……あいつはオレの勝手な都合で喚んだも同然だ。感謝される謂れはない」

「それでもいいのよ。私はギンタンと会えて良かったと思ってるから」

 

 

「……本当に良かったんだろうか」

「…………どういう意味?」

「門番ピエロが喚ぶのは異世界に憧れる者とはいえ、オレはあいつの運命を勝手に決めてしまった」

 

 

「まだ十四歳の子供の肩に、世界を背負わせてしまった」

 

 

「それに……オレはアイツを」

 

 

「ダンナさんと同じ様に、死なせてしまうかもしれない」

 

 

 

「……大丈夫よ」

 

 

 

「ギンタンはとても強いし、それに」

 

 

 

 

「私が守る」

 

 

 

 

「そうか……そうだな」

「アンタもよ、アルヴィス」

 

 

 

「アンタも絶対死なせない」

 

 

 

「……何故?」

「なぜって……」

 

 

 

「……アンタも、大事な仲間だからよ」

 

 

 

「…仲間…」

「そう、仲間」

 

 

 

「仲間って呼ばれるのは、嫌?」

 

 

 

 

「……悪くない」

「……そう」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

最初は地の文もあったんですが、無い方が感情表現がしつこくなくていいかなーと思い、カットしてしまいました。

仲間。それは言われたアルヴィスにも、言ったドロシーにも縁遠い言葉。けれど馴染んでいる自分に気付く、そんな話。

 

2010.6.30

 

 

 

 

 


 

 

 

『涙に染まる雨ex.いつか』

 

 

 

「久しぶり」

 

 海沿いの崖の上に造られた墓にそう言って、桃色の髪を風に踊らせた彼女は花を供えた。

 しゃがみ込み、腰くらいまでの高さの石に目線を合わせる。

 

「ギンタンが帰って、もう二年よ」

 

 かさかさと、花を包んだ薄紙が絶えることなく吹き付ける海風の存在を主張する。

 当たり前のことだが、墓は、何も答えない。

 

「メルへヴンの復興も大分進んだわ。田舎の方はまだだけど、都市部は殆ど機能を取り戻してる」

 

 伝えようと思っていたいくつかのことを、見つけられず彼女は口を噤んだ。

 探して、少しだけ考え、微かな笑顔で付け足す。

 

 

「いつか、会いに行くから」

 

 

 

 

「そっちで待ってなさいよ」

 

 

 

 

 迎えに来なくていいから、と冗談めかして囁いた言葉に、苦笑するような彼の顔が浮かんだ。

 すると、気の所為だろうか。

 

 

 風が少し、柔らかになった気がした。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

大切な人を失って、でも自ら追いかけることはしないと決めているドロシーの話。

このシリーズは「死を乗り越える」がテーマなので、切なくも明るい話を目指しました。

 

2010.7.7

 

 

 

 

 


 

 

 

『叶った約束』

 

 

 

「ナナシ」

 

 ファイナルバトルを終えた夜、ルベリアの仇を討ち取ったナナシの元をドロシーが訪れた。

 

「何や、ドロシーちゃん?」

 

 常に人に警戒心を抱かせない口調でナナシが振り向くと、ドロシーは美しい形の唇を笑みに引き上げた。

 数歩近付き、耳にかかった三つ編みをゆるりと掻き揚げ、

 

 

「キス、してあげる」

 

 

 わずかに挑戦的な目で、そう言った。

 意外そうに表情を動かしたナナシに、彼女は更に微笑んでみせる。

 

 

「約束したでしょ?」

 

 

 “絶対、勝ってね”

 

 “勝ったら、ご褒美にチューしてくれるか?”

 

 

 

 “…いいわよ”

 

 

 

「……流されたんかと思っとった」

「皆の前でしたら、見せ付けるみたいじゃない」

 

 ベッドに腰を落ち着ける。吐息がかかる位置まで体を寄せ、見つめ合う。

 

「勝ったわね」

「ああ。ピルンの……皆のお陰やわ」

「アルにもお礼言っときなさいよ」

 

 愛称で呼ばれた少年の名に、ナナシはほんの少し黙してドロシーを見る。

 

「あのARMがイージスだって、最初に気付いたのはあいつなんだから」

 

 

 まるで焦らすように話を続ける彼女を、ナナシは意地悪く笑って見上げた。

 

 

「……アルちゃんのことを話しに、ここに来たんか?」

「……いいえ」

 

 

 

 そして、二人の瞬間が永遠に変わる。

 

 

 

「……戻ってきてくれて、有難う」

「君みたいなええ女残して、死ねんわ」

 

 

 

 

END

 

 

 

 

アニメル76話「真紅の爪」での会話から書いた作品です。

アルドロも好きですが、この二人の組み合わせも結構好きです。世間から見たら寧ろこちらの方がメジャーのようですし。

メルメンバーの中では年上の二人なので、大人の色気みたいのを少しでも描けていたら嬉しいです。

 

2010.7.12

 

 

 

 

 


 

 

 

『冷たい海ex.変化した関係』

 

 

 

 異空間にギンタが消え、クローズドウィングに魔力の供給を続けているドロシーとジャックの傍で、スノウは膝にアルヴィスを乗せながら周囲を警戒しつつ彼らを見守る。

 同じように辺りに気を配りながら、バッボが彼女に話しかけた。

 

「のぉ、スノウちゃん。知っとるかの?」

 

 バッボは何でもないことのように話し出したが、彼の黒く小さな目が真剣な話題であることを物語っていた。

 だからスノウは「なぁに?」と彼に尋ねる。

 

「ワシらがアルヴィスと初めて会った時……こやつはワシを壊そうとしたんじゃ」

 

 壊す、という不穏な言葉にスノウは目を瞬かせ、バッボに思わず問い返す。

 

 

「アルヴィスが、バッボさんを?」

「うむ」

 

 

「ワシは前の戦争でファントムが使っていたARM。アルヴィスにとっては大勢の仲間の仇であり、呪いをかけた張本人じゃ」

 

 

 改めて認識する重い事実に、スノウは言葉を失って腕の中のアルヴィスを見つめた。

 

 

「……どんな想いで、ワシを見ておったのかの」

 

 やりきれない何かを滲ませて、バッボは表情を固くする。

 

 

「……でもアルヴィスは、今はバッボさんを壊そうとしてないよ」

「……そうじゃな」

 

 スノウの言葉を受け、バッボは口の端を持ち上げた。

 ニヒルに微笑んだそれは、紳士の笑みだった。

 

 

「ワシはそれを信頼と受け取っておる」

 

 

 ギンタが信頼を寄せる、スノウがよく知る大人の顔に戻ると、バッボは眠るアルヴィスに向かい静かに言った。

 

 

「信頼してくれるならば、こやつもワシの家来じゃ。ワシの見ている前で死なせはせん」

 

 

 

「……全く、家来の分際で手間をかけさせおって!」

 

 

 照れ臭さを隠すためか、急にいかつく顔をしかめた彼は憤慨しながらアルヴィスに近寄った。

 

 

「起きたらきっちり説教せねば!」

 

 

 びよーんびよーんと、長い鼻で彼の身体を突つくバッボに笑いを零すと、スノウは眠り続けるアルヴィスをそっと抱きしめた。

 

 

 

 

 ねぇ、アルヴィス

 

 

 

 皆あなたを待ってるよ

 

 

 

 だから、帰ってきて

 

 

 

 

END

 

 

 

 

本編で出番の少なかったキャラの話、バッボver’です。

あまり会話や絡みの無いバッボとアルヴィスですが、信頼し合っているんだろうなーと思います。アニメル83話の冒頭や、ゲーム版クラヴィーアのEDである会話から、直接的でないにしろ二人が互いに仲間と認めている描写がありますし。

でもお互い素直じゃないんですよね。だから「丸いの」呼ばわり…(笑)

 

2010.7.26

 

 

 

 

 


 

 

  

『涙に染まる雨ex.密約Ⅱ』

 

 

 

「長老! 先日お言い付けになりました、例のARMが完成いたしました」

「おお、そうか」

「研究室の宝物庫に保管しておきましょうか」

「……いや、ワシが預かっておこう」

「わかりました。こちらです」

 

 

「これか……」

 

 数日がかりによる作業を終え、何年振りかにこの世に誕生したARMは、使われるべき時を静かに待っている。

 高度の魔法を施すので複雑な工程が多々必要だったが、カルデアでも名立たる彫金師たちを集めたことで上手くいったようだ。

 ピエロの目に触れ、十字の紋章を背負った少年を思い出した。

 

(……彼は死んだと聞いた)

 

 数えるほどの回数しか会ってはいないが、彼がもうこの世に存在しないことが妙に寂しく感じる。

 聡明な若者だった。戦争のない時代だったなら、その身に宿した才能を遺憾なく発揮できただろうに。

 

 

「……ならば、ドロシーからあの少年に渡してもらうのが妥当だろうな」

 

 ドロシーの義務を知り、親身になって怒った金色の髪を持った少年。

 仲間の死に打ちひしがれているであろう彼に、良いことなのかはわからないが。 

 愛する世界にすべてを捧げた、彼の願いでもあるのだ。

 

 

「……おや?」

 

 

 しばし痛んだ心に意識を持っていかれた後、視線を戻すと指の下からARMがなくなっていた。

 

 

「……ふむ……面妖なこともあるものだ…」

 

 

 だが長老は一人呟くと、そのまま彫金室の扉へ向かっていった。

 

 

 

 無人となった室内には、かすかな気配が残っていた。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

密約の後日談。死ぬ前に受け取ったのではなく、死んでから約束を果たしに来たという設定なんです。

 

2010.8.19