「久しぶりね、アルマ」
「……お久しぶりです。ディアナ様」
「そう固くならないで」
数年振りの再会で、やや肩を強張らせて挨拶をしたアルマに、流れ去った年月を感じさせない顔でディアナは微笑んだ。
その笑顔を、空恐ろしいと思う気持ちがあるのは何故なのだろう。
数年前にはなかった、彼女の体を飾る禍々しいとも言えそうなARMの数々か、彼女の背後の部屋から漏れ出る微弱ながらも邪悪なオーラのためか。
「忙しい中ごめんなさいね」
「いえ、どうぞお構いなく」
「今日呼んだのは、これのことよ」
黒い手袋で覆った掌に乗せた物を、彼女は差し出した。
「これを貴方に渡しておくわ」
戸惑いつつも、アルマは受け取った。
ひんやりと冷たい手触りの純銀製。鍵の形をした、ARM?
「……これは?」
「プリフィキアーヴェ。ゾンビタトゥを破ることのできる唯一のARMよ」
「……!!」
『ゾンビタトゥを、受けようと思うんだ』
数日前、アルマの恋人は徐(おもむろ)に語った。
太古に禁じられた秘術によって、自分は死ぬことのない身体を手に入れられるのだと。
弱く儚い人間の器から解放され、無限に成長し続ける完璧な存在になれるのだと。
しかし、それは永遠という美しい名のついた、屍への道だ。
時を止めてしまえば、可能性などそこで終わってしまう。
彼の望む強さなど、決して手に入らない。それなのにどうして……
アルマは気を抜いたら震えそうな声を叱咤して、ディアナに訊ねた。
「これを何故、私に?」
「彼のためを思うなら、貴女が持っているのが一番だからよ」
ディアナの真意がわからず、アルマは困惑した様子で彼女を見詰めた。
彼がタトゥを受け入れることを自分は快く思っていない。なのに何故彼女はこれを渡すのだろうか。
(……それは、私がファントムを裏切らないからと言うこと?)
(ファントムが私を愛しているから、私も彼を愛しているから、だから……?)
彼がゾンビになるのも受け入れるべきなのだと、そういうことなのか?
思考がぐるぐると回る。
愛しているのなら認めるべきなのか、認めざるべきなのか。
それとも間違いと思える選択すらも、全て受け入れることが、愛?
(……私は……)
「どうする? 持っているのが嫌なら、それでも構わないのだけれど」
自分自身の思考に埋没していたアルマは、プリフィキアーヴェに落としていた視線を上げた。
「……いえ」
手の中で決断を待つ鍵を握る。
「私が、預からせて頂きます」
もし、彼が人としての幸せを見失いそうになったなら。
私が必ず止めてみせる。
光よりも魅惑的な闇の淵から、彼を呼び覚ましてみせる。
彼を、愛しているから。
「有難う」
アルマの決意を知ってか知らずか、ディアナはぞっとするほど艶っぽい笑みを浮かべた。
END
アルマが何故プリフィキアーヴェを持っていたのか。
原作・アニメ共に語られていませんが、もしファントムにタトゥを与えたディアナが渡したのなら、こういう展開だったのかもなーと自分なりに想像して書いたものです。
彼女がファントムに味方すれば、彼は絶対に死ぬことはない最強の駒となりうる。そう思いクィーンはアルマに鍵を預け、彼を心から愛している彼女は、彼がゾンビになったら自分が止めようと決意する。
出来れば呪いを受け入れる前に説得したい、でなければ自分が彼を殺そうと。
しかしそれは叶わず、後に彼女はキングに殺されることになるのですが。
葛藤を含んだアルマの回想は、アニメル79話「決着ッ」のBパートの最後を参考にしつつ書きました。
私の脳内では、ファントム・アルマ・ディアナの出会いやアルマの最期など、結構想像して出来上がっている部分があるので、連載等を進めつつ出来次第アップしていきたいと思います。
未熟なものですが、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
御拝読くださり有難うございました!
2010.6.21 初出