Link the World

 

 

 

 

 ふと「気になっていたんだが」と前置きをして、アルヴィスがギンタに尋ねた。

 

「お前は何故、別の世界の存在を信じていたんだ?」

「何故って……?」

 

 問われる理由がわからず聞き返したギンタに、アルヴィスは続けた。

 

「門番ピエロでメルヘヴンに召還される異界の住人の条件……それは、異世界の存在を強く信じている者。もしくは、その世界から逃げ出したい者のどちらかだと言われている」

 

 この話はどこかで聞いた気がする。たしかメルヘヴンへ喚ばれた時、門番ピエロ自身に言われたんだったような。

 

「前者か後者と言えば、お前は完全に前者だろう。お前が現実から逃げ出したいほど、何かに悩んでいた様子はない」

「……何かはっきり言われるとムカつくな」

 

 間違っていないけどさ、としかめっ面をしたギンタにふっと小さく笑いをこぼしたあと、アルヴィスは「ベルに監視してもらっていた時も、はしゃぎ回っていたようだしな」と召喚直後の様子を語る。

 あの時、メルヘヴンに来たばかりで何もかもが新鮮で、まぶしくて。体力が格段にアップしたこともあり、好奇心の赴くままギンタは辺りを走り回っていた。

 それをバッチリ見られていたことに、身内に授業参観を見られていた時のような恥ずかしさを覚え、ギンタは目を逸らした。

 

「不安はなかったのか?」

「え?」

「いきなり知らない世界に来て。……喚んだオレが聞くのも変だが」

 

 振り向いた先で少しばつが悪そうにするアルヴィスを、ギンタはしばらく見つめる。

 出会った頃よりも、今はずっと彼の気持ちがわかるようになった。以前より親しみを感じるようになった彼に、ギンタはニッと笑みを浮かべる。

 

「……何で信じてたんだ、って話だけど」

「……ああ」

「オレの世界でだって、海を渡れば知らない国があって、その気になれば宇宙だって行けるのに。何でメルヘンの世界だけ『ない』って言い切れるんだって、ずっと思ってんたんだ」

 

 UFOや幽霊だっているかもしれないのに、と続けた言葉に「ユーフォー?」と首を傾げるアルヴィスを、ギンタは楽しそうに眺める。いつか自分を励ましてくれた小雪の面影を思い出す。

 

 

「逆に言えば、信じない理由なんかないんだ! 他の奴らは知らなくたって、オレは知ってる。見えなくたって、オレには見えてる! だったら、少なくともオレにとっては『ある』ってことなんだ!」

 

 

 それは理屈ではないかもしれない。けれど、ギンタは信じていた。

 幼い頃より異世界の存在を。母の描いた絵本の世界、夢に見る別の世界を。

 

 

「ここじゃない別の世界があったって、おかしくない。そう信じてたから、オレはきっとここに───メルヘヴンに来られたんだ。ワクワクが止まらなくて、不安なんてなかったよ」

 

 

 力強い調子で語るギンタを、アルヴィスは自分よりも大きいものを見上げるかのように見つめる。すると屈託ない表情のまま、ギンタはアルヴィスに尋ね返した。

 

 

「そういうアルヴィスだって、異世界の存在を信じてたんだろ。だから門番ピエロを使ったんじゃないのか?」

「オレは……」

 

 虚をつかれたアルヴィスは、刹那言葉に詰まる。目の前で返事を待っているギンタは、答えがそうと確信している様子だ。

 

 ……いや、違う。アルヴィスが門番ピエロを発動すると決めたのは、前例があったからだ。

 ダンナという異世界の人間。彼が召喚された事実があったから、もう一度彼のような人物が現れることを期待して、ガイラから託された貴重なARMを発動した。

 ギンタのように、ただ純粋に、信じていたわけじゃない。

 シニカルなアルヴィスの思考は、二人のちがい故に生まれた微かな引け目からか、そう否定しようとする。

 

(でも……)

 

 本当に、そうだろうか?

 

 ギンタの緑の瞳が、アルヴィスに答えを問う。その無邪気さの中に見え隠れする光が、かつての記憶を思い起こさせた。

 

 六年前、戦の後の夜。宴の席で火を囲みながら、ダンナに聞いた話。自分の妻や子供の話や、別の世界の話。メルヘヴンとは違う、別の世界にある故郷の話。

 その話に、幼いアルヴィスは惹かれていた。夢物語のような話に毎晩楽しげに耳を傾け、思いを馳せていた。

 それらをたしかに、信じていた。

 

 

「……そうだな。お前と、同じだ」

 

 

 だからきっと、扉はギンタの前に開いたのだろう。

 そしてメルヘヴンを救いたいと切望するアルヴィスの願いを受け、彼がやってきたのだ。

 

「だろ?」

 

 繋いだのは心。繋がったのは世界。

 返事を聞いて嬉しそうに破顔したギンタに、アルヴィスもまた、めずらしく彼ととてもよく似た笑顔になった。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

元はssの予定が、少し話が膨らんだので短編扱いになったもの。

過去に書いたお題ss「好」などとも通じる話になりました。

アルヴィスは時々、ギンタの持つ純粋さを眩しく感じる時もあると思うのですが、彼もまた同じくらい純粋な…下手したら彼の方が純な面もあると思うので、その二人の純粋さが世界をつなげた、リンクした、というイメージで書きました。

ゲーム版の設定も踏まえると、その願いをラストウィッシュ(錆びたダガー)が伝えてくれたのだと思います。

この二人の関係性を描く場合、アルヴィスの中にどうしてもダンナさんの影がちらついてしまうので、そこの塩梅には気をつけました。

 

ご拝読くださり、ありがとうございました。

 

2024.5.22