言わない想い
紆余曲折ありつつも、パルトガインで他メンバーと別行動を取ることになったドロシーとアルヴィスの二人は、無事に仲間たちと合流することができた。
再会を喜び合ったあと、ふと誰からともなく話題を蒸し返したために、二人がはぐれる原因となったナナシへの非難が再度集中する。
安堵もあるのだろう、肩の力を抜いた一同の間で話が盛り上がる中、人目を憚るようにしてドロシーがアランへ話しかける。
「ねぇ、アラン。アルヴィスのことだけど……」
「……ああ」
賑やかな場から少し離れた位置に移動し、アランは続きを促した。
ドロシーは言った。現在カルデアのホーリーARMで痛みは抑えられているが、アルヴィスの身体はすでに限界であること。
遠くないその時に、全身にタトゥが回り切るであろうこと。対策としてイフィーたちがとあるARMを準備しているが、それが本当に機能するかどうか、成功する可能性は正直低いこと。
予想していたとはいえ、厳しい現実にアランは苦渋の表情を浮かべる。
「このこと、アルヴィスのやつは……」
ドロシーはただ頷いた。
「……そうか」
知っているのだと。すでに彼は知ってしまっているのだと、その仕草だけでアランにはわかってしまった。
それでいて、常と変わらない様子で会話に加わっている彼の横顔を、アランは盗み見る。楽しげな仲間たちに、小さく笑みを覗かせる彼。
胸が、痛みを覚えた。
その光景を、同じように見つめていたドロシーが口を開く。
「……あの二人には言わないでおきましょう」
ドロシーの指す人物を、アランはすぐに理解した。
「……スノウとジャックか」
目線を伏せながら、ドロシーは静かに頷く。
「あの子たち、隠しごととか下手だろうし。二人が暗い顔をしていたら、アルヴィスも気にするわ」
カルデアでイフィーから説明を受けたギンタは除くとして、まだ年若い二人にこの重い事実を背負わせるのは、いささか酷だろうと。
そう話すドロシーにアランも異論はなかった。
こうして皆で笑っていられるのは、今が最後かもしれないのだ。
「……まぁなんだ。言わずに済ませられりゃいいんだ。クラヴィーアのお宝ARMを手に入れれば、万事解決ってことだろ」
「……そうね。なんとしても手に入れないと」
希望的観測を含んだアランの言葉に、ドロシーはいつになく真剣に首肯した。
……存在するかもわからない、お伽噺のようなARM。
たとえ可能性が、限りなくゼロに近くとも。
自分たちは彼を、助けたいのだ。
できることをしよう。そう改めて決心するドロシーの肩を、アランはそっと労りを込めた力で叩く。
つられて見上げた先には、珍しく彼の優しい微笑があった。
「おーい、オッサン、ドロシー!」
「お話、そろそろ終わったー?」
呼びかけるギンタとスノウの横で、ジャックがおーいと手を振っている。
「おー、待たせたな」
「今行くよーん、ギンタン!」
まるで示し合わせたかのように、殊更に明るい声を出して、二人は仲間たちの元へ歩き出した。
終わりの気配が近づかぬよう。
かすかな希望が消えないよう。
互いにそう、願いながら。
END
ゲーム版クラヴィーア沿い、ドロシーとアランの話。
あまりない組み合わせの二人ですが、イメージとしては、原作でカルデアに行く前にディアナのことを話している時のような感じです。
既視感のあるタイトルかと思われますが、実は過去作「廻る想い」「言えない想い」を含めた一つのシリーズとして考えていたものです。通称「想いシリーズ」。そのまんまです。
構想から何年越しかにようやく形になりました。いつものことながら放置しすぎです。
「アルヴィスに時間が残されていない」という事実を、ジャックとスノウが知っているかどうか。
実際のゲーム中ではわからないのですが、パルトガインから迎えに行ったナナシが簡潔ながらも現状を聞いている様子からして、描写されていない=もしかして知らない?ということから考えた設定です。
実際エンディングでも、二人とエドは引き留めようと明るい話題をアルヴィスに振っていましたし。
もしかして、大人組が年下組に配慮してあげたのかもなぁと。
アルヴィスも多分、仲間たちには必要以上に知らせたくないと考えているだろうとも思い、そういった設定にしてみました。
ウォーゲーム開始当初は、タトゥのことも隠していましたしね。
多分、ベルやギンタにも本当は言いたくないんだろうけど、ベルはカルデアに付き添った成り行きで、ギンタもカルデアに行ったのと、キャプテンだからと言うことで明かしたんじゃないかとも思っています。
短いお話ですが、せっかくシリーズものとしての位置付けもあるので、短編としてアップします、
ご拝読くださり、ありがとうございました。
2023.1.25