It neatly hears it.
彼は生き物に好かれる体質らしい。
というのは森での修行中、紛れ込んできた動物のほとんどが妙に彼に懐くからだ。
人間には愛想が良くない彼も、彼らにはずいぶん柔らかい雰囲気で接しているし。
基本的に人里から離れて暮らす、妖精という特別な種族であるベルがアルヴィスと一緒にいることもあって。動物たちには彼が自分たちに危害を加えないのだと、本能でわかるのかもしれない。
堅物な彼が可愛らしいリスに囲まれている姿とかは、見ていて結構面白い。
けどやってくる中にはすごい生き物もいて、そいつらと平然と和んでいるアルヴィスに半ば呆れたりもする。
今現在も、アルヴィスが腕に止まった鳥の顔をくすぐっているのを、オレは少し呆れて見ている。
時折そいつが動作をする度、アルヴィスが相槌を打つように表情を変えるのでオレは尋ねた。
「おまえ動物と話せるのか?」
「いや。ベルなら彼らの言葉もわかるみたいだけど」
妖精だからな。そういやアイツの年っていくつだろう。
「話せないけど、言ってることは大体わかる」
「え! 本当に!?」
「普通だろう?」
いや普通じゃねぇ。
そりゃこっちの世界には、エドとかバッボとか喋る岩とかいるけどさぁ。喋らないやつもいるだろう? 猫とかさ。
そんな奴ら全部と、誰もがお前みたいに意思疎通できるわけじゃないと思う。
生まれながらにそういう資質を持ってる奴には、当たり前の感覚なのかしれないけど。
てか……
………少なくとも、普通はそんなでっかい嘴と真っ黒な羽のやつとは、好んで話さないと思う。
カラスと話してる人間なんて、オレが見た中じゃお前が初めてだ。
「アルヴィスはカラス好きなのか?」
「動物は皆好きだよ。……苦手か?」
「苦手っつーか、あんま好きじゃねーな。オレの世界では好きな人の方が珍しいんじゃねーの?」
ゴミを漁るし、人を襲うし、と続けると「だが理由があるんだろう?」とアルヴィスは食い下がってきた。
「ゴミを漁るのはえさを探してるからだって知ってるけど……人を襲うのはなんでだ?」
「多分テリトリーに侵入されたからだな。子育てのときは特に顕著だ」
「だからって襲う必要、あるのか?」
「お前だって、知らない奴に家にいきなり入りこまれたら怒るだろう」
「……なるほど」
「お前が知らなくても、彼らにだって事情がある。人間からしたら迷惑なことも、彼らには必要な行為だ」
「そうなのか……」
改まった気持ちで羽の毛づくろいをする“彼”(彼女か?)を見るオレに、聞いて欲しかったのかはわからないけど、アルヴィスは独り言のようにぽつりと零した。
「……動物は生きるのに必要なことしかしない。でも人間は…………」
遠くを見ながら、アルヴィスは言葉を止めた。
その表情が悲しそうだったから、オレは慌てて彼に向いてふざけて見せる。
「で、でもさー。それわかっててもカラスはやっぱり怖いし。見た目が何かダークっつーかさ」
オレの振る舞いを察したのか、そうでないのか、アルヴィスはしばらく何も言わなかったけれど、やがてくすりと笑った。
「……そんなこと言ってると、怒るぞ」
「え?」
「カラスは頭がすごく良いんだ。老熟した群れのリーダーでは喋るものもいる」
「マジかよ!」
「お前が言っていることも、大体理解しているはずだ」
おそるおそるアルヴィスの肩に乗る彼(ということにする)を覗き込むと、彼は大きな嘴を持ち上げてオレの頭を数度突っついた。
「うわ、いてて!」
「ほら、怒った」
楽しそうに言ったアルヴィスの横で、彼は同意するように一声鳴いた。
END
長さとテーマが中途半端になったのでss扱いでなくなったもの。
アルヴィスが動物に好かれる、というのはこの話での完全捏造ですが、あながち外れていないような気もします。アニメル「傷だらけのアルヴィス」で遭遇した岩の親子に対する態度や口調などが、ベルに対するものと近かったので。(ベル仕様だとそれに甘さが加わる)
余談ですが、アルヴィスはこの親子にいなくなったベルの所在を聞いた後、わざわざ彼らの前に移動して「有難う」と言ってるのです。律儀だ…。
タイトルは日本語にすると「ちゃんと、聞いてるよ」というニュアンスの文です。
誰のセリフかは…ご想像ください。
メルヘヴンでのカラスは、マグリット霊園でいた描写などから考えると、現代と同じような捉え方なのでしょうね。
多分三本脚だったり首が二つに分かれてたりするんだろうな。
正直、意味不明感の残るものですが、ギンタとアルヴィスの会話を楽しんでいただければ幸いです。
御拝読下さり、有難うございました!
2010.5.25