他でもない貴方の
熱い熱い海底火山から出て。
色々な意味で疲れて動けなくなっていた私は、木陰でぼんやり涼んでいた。
洞窟の熱気に触れて、吹いてくるのは生温かい風だが、それも気持ちいい。
「ドロシー」
足元を震わせる草の音に目を開けると、冷たい水がたっぷり入ったコップをアルが渡してくれた。
「ありがと」
受け取ってから、あの憎らしい魔女の所為でここの水場がなくなったことを思い出した。
「……湖干上がっちゃったのに、どこから汲んできたの?」
「調査隊の人たちに分けてもらった。クレイドンの森から汲んできたものだそうだ」
「なるほどね」
となりに腰を下ろした彼の答えに納得し、水分を喉に流し込む。
ドンを育む水は綺麗だ。アースジャグラーの影響があるとはいえ、体調を崩すようなことはないだろう。
太陽が、眩しい。
「……スノウは?」
「元気そうだよ。少し休んだら動けるって言ってる」
「……そう。良かった」
海底火山は氷属性の彼女に非常に負担のかかる場所で、心底心配したけれどもう大丈夫のようだ。
木陰からも仲間たちと談笑する彼女の姿が確認できて、ほっとする。
つきっきりでギンタンがいるのに、ちょっと嫉妬心も湧くけど。
「……君も」
「無事で良かった」
そのタイミングを見計らったように、アルが声をかけてきた。
ベル以外には時々しか見せない、優しい笑顔だ。
その顔が不意打ちすぎて、正面から見返せず私は視線を外した。
「別に平気よ。あんなんでやられると思った?」
「いや」
即答されたことに密かに虚しさを覚える。
ぶっちゃけ結構ハードだったし、大したことあったんだけど。
「でも、心配はした」
「……それは、スノウのでしょう?」
「スノウもだけど、君も」
意地悪い態度に対する返事はひたむきな言葉で、何となく罰が悪くなった。
だから私はますます、彼の顔から目を背けてしまう。
先程から、自分が柄にもなくいじけているのは分かっている。
でも同じ女の子なのに、皆のスノウと私の扱いが違うことに理不尽さも感じる。
ギンタンは私に見向きもせず。
へたりこんでいたスノウに真っ先に駆け寄った。
他の皆だって、合流して次々に口にするのはスノウのことばかり。
女の子扱いされたいなんて、思っちゃいない、けど。
……やっぱり男の子にとって、女の子は守ってあげたい存在なんだろうか。
「それはドロシーが強いってわかってるからだよ」
考えが口に出ていたのだろうか。問いに答えるように、アルヴィスが言った。
「君の強さを信じてたから」
こいつが言ってることって、皆とそう大差ないんだけど。
「だからスノウのことも安心して任せられた」
心に淀みなくすっと、入ってくる。
「同じ態度はとらないさ。違う人間だから」
この目の前の少年は、どこまで私の気持ちを見透かしているのだろう。
ただ拗ねているだけなのだと、わかっている?
私の単純な考えなど、アルは全てお見通しのように朗らかに笑って。
彼は自身より背の高い、私の頭に手を置いた。
「お疲れさま」
ぽすぽすと、何度か頭を叩かれる。
…………これは女の子じゃなくて子供にすることじゃない?
そうも思ったけど、規則的なリズムの感触が心地いい、とも思ってしまう。
温かい気持ちが流れ込んできてる。
「……まあね」
恥ずかしい気もするけど、満更でもない気分で私はそれを甘受した。
「……さてと、ドロシーちゃんふっかーつ!」
何時の間にか自然と笑顔になって、勢いよく立ち上がる。
ドレスについた草をぱんと払って、結った髪を掻き上げた。
「もう一回海底火山に乗り込もうじゃないの!」
「……ああ!」
振り返った場所で微笑んだ彼と一緒に、私はギンタンたちのもとへと駆けた。
それは信頼というものの、一つのかたち。
END
時間軸は「カルデアの悪魔」の後半戦突入時ぐらいです。
ゲームをプレイした方はわかると思いますが、この話の前、敵の策略によりダンジョン内でスノウとドロシーが仲間たちと分断されてしまいます。
熱い海底洞窟の中、属性の影響で徐々に弱っていくスノウをサポートしながら、孤立無援の状態で窮地を乗り切ったドロシー。
しかし、ようやく再会したギンタに抱きつこうとすると、ギンタは無下にスルーし彼女を弾き飛ばしてスノウに駆け寄ります。
しまいにはひっくり返ったままの彼女に「何寝てるんだドロシー、戻るぞ!」と言う始末。
その展開があまりにも哀れすぎたので、アルに励ましてもらいました。
…励ましているのかはいささか疑問ですが、気になる男の子からの言葉はきっと強い筈です。多分。
いじける彼女とまっすぐなアルのやりとりを、楽しんでもらえれば幸いです。
御拝読下さり、有難うございました!
2010.4.15