「決してその手を離さずに 振り返らないでいてね」
硝子の願い
この旅の途中まで__オレは未来を諦めていた。
呪いに屈したくはなかった。
しかし自分の平穏が何かと引き換えであるなら、要らなくてもいいとも思った。
何かと一緒に秤にかけるほど、オレの命に価値はない。
イフィーたちに現実を宣告されても、不思議と心は平静だった、
覚悟していた時が早くなっただけだ。
ただ、自分のことではないのに、必死に奔走してくれる皆を見て。
残された短い時間で、彼らに何を返せるだろう……そんなことを思っていた。
ギンタが躊躇わず背中を押してくれた時、
自分でも驚くくらい心が震えた。
望んでもいいのだろうか……未来を。
戸惑う心と光明を手に、王の間へ入った。
……許されてもいいのかと、思ったんだ。
喉が苦しい。
肺が痛い。
胸が──辛い。
…………何を悲しむ必要がある?
自分が何よりも望んでいたのは、メルへヴンの平和、
今度こそ本当に訪れる、恒久の。
オレの願いはいつだってそうだった。
その為なら、何を失っても惜しくはないと
死んでもいいと、思っていただろう?
だけど今、瞼がどうしようもなく熱い。
受け入れていた筈なのに。
死んでもいいと思っていたのに。
でも、どこか諦め切れなかった
呪いが進む度、意識を手放しそうな痛みに耐えたのは
光の見つからぬ夜、首筋に当てたダガーを震えながら止めたのは…
虹色の階段の半ばで足を止めた。
頭上を追い付けない速さで雲が流れてゆく。
自分の方が遥かに早く時を刻んでいるのに、まるで世界が自分を置いて動いているような気がした。
「………そうか。オレはこんなにも」
忘れかけていた気持ちの雫が、瞳からこぼれる。
「本当は、生きたかったんだ」
行き場のない涙が、どこまでも透明な空へと落ちた。
END
非常に短いですが、かなり時間をかけたものです。
散々書き直しましたが、結局断片的な感情を追ったものとなってしまいましたので、クラヴィーアをプレイされた方はゲーム場面を思い浮かべながらお読み下さると幸いです。
この話は「あなたがここにいる理由」執筆時に思い付いたものです。
あまり感情を表に出さず、自分自身には無頓着な彼ですが。
ダンナさんやメルへヴンなど、常に他を優先しつつも、心の奥底では生を望んでいたに違いないと思ったのです。
エンディングで「これでいいんだ」と言いつつも、仲間の顔を見ずに走り去ったことや、
「とっくに出口に辿り着いていたんだろうな…」と、寂しそうに呟いたこと。
アルヴィスの気持ちを突き詰めて考え、私なりに考えた彼の想いを、拙くも精一杯書かせて頂きました。
少しでも彼の心の一端に触れられていれば良いな、と思っています。
短く拙いものですが、御拝読下さり有り難うございました!
2010.4.18
追記:執筆の助けにした曲は、GARNET CROWの「未完成な音色」。
まんまクラヴィーア!と思える切ない歌詞と曲調の歌です。
GARNET CROWの曲はMARを書くのに本当にイメージの助けになるものばかりで、私自身は勿論、もはや当サイトになくてはならない存在です。