冷たい海【14】

 

 

 

「これで良かったのですか」

 

 先程まで眺めていたマジックミラーの映像を消し、満足気な様子で玉座に腰掛けるファントムに向かって、ペタは声をかけた。

 

「うん。不穏分子の処理の手間も省けたし、興味深いものも見れた。余興としては十分だよ」

 

 笑顔を絶やさないファントムはペタはどうだった?と明るく尋ねた。

 

「彼らの茶番は実に見物でした」

「果実は確実に熟している……食べ頃までもう少しだ」

「…しかしお言葉ですが、あれだけでは、彼らの結束を固めさせただけではありませんか?」

 

 

 ペタはてっきりアルヴィスを連れ帰るのかと思っていたが、ファントムがしたことは、アルヴィスの弱さを他の者に教えただけだった。

 そしてそれは、彼らの絆を強くさせることとなった。

 

 ウォーゲームも佳境に入った現在、彼らの力を上げるような真似はこちらの足元を掬われかねない。

 

 

 この方は、何を考えている?

 

 

 

 

 すると、ファントムは愉しげな笑みを、

 

 

「そうだね…でも強く固く結ばれたものほど、壊れがいがあるだろう?」

 

 

 

 残酷なものに変えて、言った。

 

 

 

 

 戦慄に近い感情が奔る。

 

 

 ああ、やはりこの方は。

 

 

 私の想像以上に素晴らしい。

 

 

 

 

「それに僕たちが負ける保証があるの?」

 

 

 答えが決まりきっている問いに、ペタは薄い唇を笑みの形にして答えた。

 

 

「……いえ」

 

 

 その答えに満足した様に、ファントムは再び楽しそうに笑った。

 

 

「……果実が熟すのが楽しみです」

 

 

 直にくるだろうその時を思い、ペタはまた低く笑った。

 

 

 

 

 下がっていい旨を告げるとではまた明日に、と言い置いてペタは姿を消した。

 大広間を離れたファントムは、ゆったりとした足取りでバルコニーへと向かう。

 

 

 見上げる夜空はあの海に似た暗い色。

 それを眺めながらぽつりと呟く。

 

 

「……アルヴィス君、君はやはり僕の選んだ子だ」

 

 

 あれだけ深い闇を持っているのに、それでも前を見つめる眼差し。

 初めて出逢った時から変わらず、強い光を宿す瞳。

 

 ますます欲しくて堪らない。

 

 

 

 真っ暗な闇に向けて手を伸ばす。

 この手でつけた呪いが廻りきるまで、あと少し。

 

 

 

「早く僕の所へおいで」

 

 

 

 

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