若き騎士のBlue hour

 

 

  

 静けさを取り戻した広場で、アルヴィスは眠りから目覚めた。

 何度か瞬きをしていると、肩にまでかかった毛布が目に入る。

 誰かがかけてくれたらしい。アランだろうか。

 近くを見回して、空になったジョッキを持ったまま大の字になっている彼にも毛布がかかっていることを見て、くすりと笑う。

 きっと城の兵士か誰かが、気を利かしてくれたのだろう。

 

 宴の後、そのまま皆で寝てしまったようだ。

 チームの誰一人部屋には戻らなかったらしく、皆さまざまな格好で眠っている。ベルもスノウの傍で毛布にくるまっている。

 アルヴィス以外ほかの者は起きていないようで、生き物達の気配もせず、レギンレイヴ城前の広場は静まり返っていた。

 

 夜の闇が微かに白み始めた空を、ほんのりと青く染めている。

 少しずつ朝が近付いてきていた。

 

 

 アルヴィスは、隣で眠るギンタたちを見る。

 ゆうべ彼が呟いた言葉が、その間抜けな寝顔に重なって聞こえた。

 

 

『あっという間だなって思ってさ』

 

 

 ……そうさ。それこそあっという間だった。

 ファントムが復活することを知りつつも、何も出来ずにただ待つだけだった六年間も、ギンタを喚んでから、ウォーゲームで戦いを続ける今の日々も。

 前者は焦れったいほど緩やかに過ぎていった。しかし振り返ってみれば、早いものだったと言わざるを得ない。世界を彷徨いながら、希望があることを信じ己の腕を磨き続けた六年間は、現在のアルヴィスを形作る礎となっている。 

 

 

 そして今、共にいる彼らと過ごすこの日々も、自分の人生において糧となるのだろう。

 予感めいた確信に、アルヴィスはそっと微笑する。

 

 

 たった数日と、誰かは言うかもしれない。けれど過ごした日数と関係なく、アルヴィスは「今」を、かけがえのない時間だと言い切れる。

 ジャックが言っていたように、きっと、ずっと忘れることはない。

 

 

 

 ……時間の長さが記憶の密度を薄めてしまうということはなく、記憶に伴う感情の大きさは、時間の長さに決して比例しない。

 

 

 

 青色の世界で、東の空に昇る一条の光を見つめる。

 ……もうすぐ、夜明けだ。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

前回提出した『幼き戦士達のMagic hour』の対になる話です。

元々「アンソロサイト様の公開期間内に、サイトに載せられたらリンクしてるようで楽しいなぁ」と思い暖めていた話ですが、企画の二回目が行われることをお聞きして、折角の機会なのでこちらを提出させて頂きました。

タイトルをリンクさせるのは、企画ならではといった感じがして結構気に入っています。相変わらずそのままのタイトルですけども!(苦笑)

「若き騎士」は勿論今回メインのアルヴィスのこと、「Blue hour」は朝焼けの時間帯を表す言葉です。

一応『幼き…』を先に読まなくても話がわかるようにしたつもりです。

 

前作に続き、今作のテーマも「時間」です。

以前「真夜中のhide and seek」の後書きでも書いたのですが、メルメンバーが一緒にいる時間は実はすごく短くて、でもその時間が彼らにとってはかけがえのない日々で。

例え一瞬の間でも、彼らにとってそれが忘れられない思い出になる…そんな感じを描きたくて、2本に渡り挑戦してみました。

少しでも良い物になっていたら幸いです。

 

ご拝読下さり、有り難うございました!

 

初出 2014.3. MARwebアンソロジー