アルヴィスの七日間の休暇 5
大好きな彼の部屋には、知らないうちに少しだけ荷物が増えていた。けれども相変わらずきちんと整えられている。
そのベッドの上で、ベルはのんびり羽を休めていた。しかしふと見知った気配に顔を上げる。
部屋の真ん中でディメンションARMの光が現れる。だがベルが驚くことはなかった。自然と口には笑みがのぼる。彼だ。
アンダータの光が消え、宙に浮いていたアルヴィスの足が床に降りた。ベルは笑顔で声をかける。
「アルヴィス! おかえり!」
「ああ」
ベッドの端でぷらぷらと遊ばせていた足を内側に寄せ、姿勢をほんの少し正すとベルは訊ねる。
「まだ休暇は終わってないけど、もうお仕事に戻るの?」
そう。休暇として出されたのは、ちょうど一週間。けれど彼が戻ってきた今日は、期限より一日早いのだ。
てっきり肯定されると思い、真面目な彼らしいなと彼女が考えたところでアルヴィスの声が続いた。
「……最後に、行きたい場所があるんだ」
意外な発言に静かな横顔を見ていると、アルヴィスは彼女の顔を覗き込むようにして問いかける。
「ベルも来てくれる?」
幼い時のような口調で聞くアルヴィスに、ベルはわずかに驚嘆を覚えるがすぐに頷いた。何のためらいもなく、当たり前のように。
「もちろん!」
少し休んだ後、アルヴィスは身支度を整え始める。
クロスガードの服ではない、見覚えのない服装をした彼にどうしたのかとたずねると、スノウに選んでもらったらしい。
聞けばこの数日間、懐かしい顔ぶれに会いにメルヘヴンの各地を巡っていたという。
「いいなぁ! ベルも皆に会いたかった」
「また今度。次は一緒にね」
「うん! ぜったいよ」
ラフなジャケットとパンツの上に、最後に腰の辺りにまで届く長さのフードを被り、アルヴィスは指輪を取り出した。
先ほども発動していた、螺旋を描く特徴的な形のARMは彼が持っていないはずのものだ。
「そういえば、そのアンダータどうしたの?」
「ドロシーが貸してくれた」
なるほどーと納得したベルを伴って、アルヴィスが行き先に指定したのはレギンレイヴだった。
久しぶりに訪れた城は、戦時中の荒廃した瓦礫などが片付けられており落ち着いた様子だった。
てっきりそのまま城内に入るのかと思いきや、アルヴィスは城を背にするとコンパスと地図を確認し、北へと向かっていく。
歩き出してからしばらくして、ベルは彼の表情を窺う。
「……ねぇ、アルヴィス?」
「ん?」
「どこへ行くの?」
「うん……」
アルヴィスは曖昧な調子で言葉を濁す。
彼にしては珍しい反応に、ベルは質問を変えてみた。
「……アンダータでは行けない場所なの?」
「……多分ね」
やっぱり曖昧な答えに、ベルは内心首をかしげる。だが問いを重ねることはしなかった。
そうして一日歩いた二人は、街をいくつか通り過ぎたのち、草原の見晴らしの良い場所で野宿をした。
アルヴィスと旅をし始めてからこの六年間、よくしていたことだ。慣れた手つきで焚き火を作り、夕食を済ませた二人は木の根元で寝転んだ。
寒い季節じゃなくてよかった、と言うベルに、そうだね、とアルヴィスは返した。
幸いにも天候は晴れていたので、夜は星がよく見えた。
葉っぱの隙間から夜空を見上げながら、二人は昔のように話をして、やがて眠りについた。