One night
金色の髪に、指を通す。何度か撫でるように動かし、さらりと指の間を流れる髪は滑らかで、気持ちがいい。
ふしぎとほのかな香りが漂う。シャンプーか、それとも地肌の?
鼻孔の奥を突くのはほんのりとわずかに甘いような、クラピカの、匂い。
体の下で、クラピカがくすぐったそうに身をよじった。
繰り返し撫でる手から離れるように身じろぐが、逃しはしない。
ふと、クラピカの手が上がった。
白い腕。細くしなやかなそれがゆるりと持ち上げられる。
宙をさまようように頼りない動きをする。
触れるか触れまいか、迷うような仕草。クラピカが結論を出す前に、導いてやる。
手を取ると、驚きにわずかに体が跳ねるが、やがて緊張が抜けていく。
握られていた指が意思を持ち、再び動く。
クラピカの手が、俺の顔を辿る。
瞳のきわから頬骨、顎のラインをなぞって。
ゴツゴツとした男の肌だから触り心地もだいぶ違うだろうに、柔かい指の腹を滑らせて嬉しそうに笑う。
「なんだよ、くすぐったいな」
「お返しだ」
さっきの、と付け足して、クラピカはまた悪戯っぽく笑った。
その微笑を見ると、なんだか心に光がこぼれたように、あたたかくなる。
優しい明かりが灯るような、そんな感じだ。
「あー」
「何だ?」
どうしたのかと問う声が、突っ伏した俺の耳を静かに揺らす。
少しトーンの潜められた声が骨を揺らして、震わせて、体の中に染み込んでいくような。
心地よい、というのが当てはまる感覚。
「俺、骨の髄までおまえに惚れてんなーって」
「そうか」
「おまえは?」
「ん?」
ことりと音がするように、首を傾げてみせた顔は可愛らしい。
なにもかも許してしまいたくなるが、追及の手は緩めない。
「おまえはどう?」
再度たずねると、クラピカは笑みを深くした。なにを今更、とでも言うように、今度は迷いなく、俺の腕を取った。
そして一瞬だけ間を置いて、自身の胸に俺の手をあてがった。
「これが答えだよ」
クラピカの心臓は、俺と同じ速さで打っている。
珍しく、先に目を覚ました。隣で眠る顔は、普段より子供っぽく、どこかあどけない。
ぽっかりと小さく空いた口が、印象にさらに拍車をかけている。
ふと、動かないのがやけに不安に思えて、手を伸ばした。
頰に触れて、乾いた唇がかすかに動き、息をしていることを、心臓が動いていることを、確かめる。
とくん、とくん。耳では聞こえない音を、指で拾う。
胸に滑らせた指に、レオリオは眠ったままくすぐったそうに身じろいだ。
ふふ、と口から笑みが漏れた。彼のそばにいて、己の内側から自然と溢れ出るものは、やさしい感情を伴っていて。
ありふれた表現だとしても、ほかの何かに例えるよりも「幸福」という言葉がしっくりとくる。
クラピカはそのまま、自身の手をレオリオの体に押し当てた。
指先だけでなく手のひらも、皮膚の凹凸も全て密着させる。
レオリオの体温が、クラピカの手から体へと移っていく。
血が通っていく。呼吸して酸素を得たように、あたたかなものが身体を巡って、満たしていく。
レオリオの心臓が動く。同じように体温を分かち合うクラピカの心臓も動く。
動いている。そのことを改めて感じとる。
彼の胸の上で、心臓の呼吸を聞きながら、眼を閉じる。
そうして、クラピカもまた、生きている自分を知覚するのだ。
END
「ある夜」をテーマに、即興で書いたもの。
最初はレオリオ側だけでしたが、両方からの視点も欲しくて、結局クラピカサイドも書きました。
そこはかとなく「なんかエッチだ byキルア」な空気を目指しました。…ワンナイトラブではありません!(笑)
普段はあまり露骨なのは自制しているのですが、魔が差したのはipodのランダム再生でムーディーしりとりを聞いたせいだと思います(笑)
初出 2019.3.13