見えた気持ち
「……何でオレを庇った?」
太陽が顔を出した地平線を見つめるネテロに向かって、ゴンとキルアが駆け出す。
二人の後ろ姿を見ていたクラピカは、隣の人物の発した問いかけに横を見た。
「らしくねぇことしやがって。心臓止まっちまうかと思ったぜ」
サングラスの奥に見える、怖いぐらい真剣な瞳に、クラピカは彼の怒号を思い出した。
『馬鹿野郎!!!』
影の一人・修羅によってクラピカの首に埋め込まれた、怨の込められたカプセル。
気を失いそうになるほどの怨め、怨めと体内に激しく響く怨嗟の声。
肉体が異質な力で作り変えられていく痛み。
その苦痛と戦っている間、必死な彼の声は聞こえていた。
震える指を、痛いくらい力の篭もった手で握られていたのも覚えている。
……仲間を失うのが嫌なのは、彼も同じだったと思い出し、クラピカは素直に謝罪の言葉を告げた。
「……すまない。気付けば身体が動いていた」
「ゴンかよおめーはよ」
レオリオは無鉄砲な仲間の名を挙げた。クラピカも苦笑する。
名前の挙がった当人はキルアと共に、ネテロと談笑していた。怨と誓約するという無茶なことをやらかしたが、ネテロの言った通り後遺症などはないようだ。
長い夜は明け、破壊の跡が残る天空闘技場には、変わらぬ朝日が差していた。
「……あの時」
朝日が作る影を見つめながら、クラピカは言う。
「修羅という男がお前に攻撃を向けた時、色々なことが頭をよぎった」
荒らされた故郷。仲間。蜘蛛のこと、ヨークシンでゴンとキルアが蜘蛛に連れて行かれた瞬間……
「————お前を」
手を振る親友の影。
「失いたくないと思った」
ストレートな言葉に、レオリオは思わずクラピカの顔をじっと見てしまった。
彼の視線を感じながら、クラピカは自分の顔がだんだんと熱くなっていくのを感じていた。
「……これでは、理由にならないか?」
赤みの差した顔で、少し拗ねた様な口調で言うクラピカに、レオリオも同じ様な表情になってしまう。
自分で聞いたこととはいえ、恥ずかしくなったレオリオは「あ…いや…」とぽりぽりと頭を掻いた。
「……悪ィ」
「何故謝る」
「……何となく」
「……だったら初めから聞くな」
おかしな沈黙が漂う。
レオリオは咳払いをすると、クラピカに向かって言った。
「そのー……お陰で助かったぜ。……ありがとな、クラピカ」
レオリオの礼を聞いたクラピカは、ふっと表情を崩した。
「……それはこちらの台詞だよ、レオリオ」
穏やかに笑って、クラピカはレオリオのきょとんとした顔を見つめた。
あの戦いの時、レオリオに言われたことが、自分にとってどれほど嬉しかったか。どれだけの意味を持っていたのか。
彼自身はきっとわかっていないだろう。だがクラピカにとってはずっと抱えていた迷いの闇を振り払う、何よりも強い言葉だった。
救われたのは、自分の方なのだ。
けれどそれを正直に話すのは、さすがにこそばゆい。
だから、クラピカは笑みを浮かべたまま、足のつま先を少し伸ばした。
背を伸ばして、自分より頭一つ分高い位置にあるレオリオの耳に、顔を寄せる仕草をした。
なんだ? と、レオリオは少し身を屈める。クラピカの背がレオリオに届く。
息がふれあう距離で、クラピカはその言葉を紡いだ。
〝ありがとう〟
「クラピカー! レオリオー! 戻ろうー!」
「……ああ!」
あっという間に離れ、手を上げて呼びかけてくるゴンにクラピカは声を張り上げる。軽く駆けていく背中を、レオリオは暫く見つめた。
やがてゆっくりと笑みを刻むと、自分も小走りで彼を追う。
レオリオの耳には、先程のクラピカの囁きが、まるで特別な言葉のようにいつまでも、耳に残っていた。
END
ラストミッションはレオクラ好きには美味しい映画でした…。レオリオの台詞とかラストのクラピカの笑顔とか!
タイトルは二人のイメージソングであるGARNET CROWの「call my name」から連想しました。
初出:2014.5.3 「Walk along with...」
web再録:2018.11.26