届かぬことば
何度目かの覚醒に、ステラはうまく機能しない瞳にうっすら映る世界を眺めた。
知らない天井。規則的に繰り返される機械の音。無を連想させる白の空間。
ここは嫌い。怖い。
「ステラ……?」
彼女の覚醒に気付いたシンが、そっと呼びかけてくる。
胸を満たす優しい響きに、ステラは痛みに閉じかけた瞼を再び開けた。
「シン……」
シン。燃えるような赤い瞳を持った人。ステラを守ってくれる人。
たどたどしい声音で名前を呼ぶと、シンは笑いながら顔を歪めた。
最近シンはいつも泣きそうな顔をしている。
笑っているのに泣きそうな顔で、自分を見ている。
「シン……ステラ……守るって……」
いつか貰った魔法の言葉を言うと、シンはさらに瞳を歪め苦しそうな顔つきになった。
どうしてそんな顔をするのか、ステラにはわからない。
だから、何度も何度も繰り返す。
ねぇ、シン。ステラ、大丈夫なんだよ。
シンが言ってくれたから。“守る”って言ってくれたから。
だから、だいじょうぶって、いいたいのに。
ああ、またあなたが遠ざかってゆく。
まだ言いたいのに。話したいのに。
伝え、たいのに。
霞んでゆく視界の端に、涙が滲んだ気がした。
END
ステラがミネルバにいるとき、何度も繰り返した守るという言葉。
それを聞いてシンは、約束を果たせていない自分を呪い心を痛めますが、ステラにとっては自己暗示のような呪文だったんだと私は解釈しています。
シンが守る。だから私は大丈夫、死なない、と。
しかしそれを知らないシンは責められている様にも感じる。知らない所ですれ違っている二人。
……何度見ても切ないです。
タイトルは数年前に執筆したものとシンクロさせてみました。
あの頃から殆ど進歩がない文章ですが、少しでも何か感じていただけましたら幸いです。
ご拝読下さり、有り難うございました!