太陽の名
「んじゃあ、明日の午後二時! 落ち合うのは今日と同じ場所ということで」
「わかったわ。よろしくね」
「そりゃもうあやせさんの為なら! 君島邦彦、一世一代の働きを見せますよ~」
意気揚々とポーズをとってみせる青年に、あやせは硬かった表情を少し綻ばせた。
君島は調子の良い男ではあるが誠実で、仕事に関しても評判は確かだ。
ただ一つ、彼女には懸念事項があった。
「君島くん、一つ聞いてもいいかしら?」
「どうぞ何でも!」
「その助っ人という人、腕は立つの?」
「え?」
「君島くんの友達を疑うわけじゃないんだけど…」
やはり心配なのだと彼女は続けた。もしこの計画が失敗すれば、仕掛けた自分たちだけでなく、捕まっている街の人たちもHOLDに粛清されるからだ。
すると君島は苦笑して言った。
「……ダチってほど可愛いもんじゃねぇっスよ?」
「……そうなの?」
「ええ。すぐ人のこと殴るし、気に入らなかったら依頼人だってぶっ飛ばすし。『友達』みたいなやさしいもんじゃなくて、ありゃ悪友です。いや暴君!」
「ぼ、ぼうくん……」
あまりの言いように言葉を失ってしまうが、君島はふっと笑う。
「けど、バカみたいに真っすぐな生き方をしてる。自分の信念を曲げないで、それを押し通すだけの力を持った奴なんです」
表情に隠しきれない、ほんの少しの憧れを宿しながら、君島はロストグラウンドの乾いた空を見上げる。
本土に建つビル群のように遮る物のない空は、二人をただ見下ろしている。
「……あいつを見てると、アルターが使えない普通の人間の俺でも、何か出来るんじゃないかって思わされる。『何かしてみせる』って動きたくなる。俺が知ってる中で、一番強い男です」
太陽の光が瞳を焼くのを厭わず、空を見上げるのを止めないで君島は言い切った。
彼の眼差しに、導かれるように。気が付けばあやせは問いを紡いでいた。
「……その人の、名前は?」
「カズマ。シェルブリッドのカズマです」
「カズマ……」
三文字の音の連なりを彼女は呟いた。風が言の葉をさらっていく。
「カズマ……シェルブリッドのカズマ……」
それが一生忘れられない名前になることを、彼女はまだ知らない。
END
スクライドの王道はカズマとかなみですが、私はカズマ・あやせの二人の組み合わせも好きです。
あやせにとって、カズマは眩しすぎる太陽のイメージ。
燃え尽きるとわかっていても、焦がれずにはいられない、そんな太陽のような印象があります。
カズマの生き方は、あやせには真似をするには辛すぎたものなのかもしれません。
でも、あやせはそんな彼に強く影響を残しました。名前を覚えることが苦手なカズマに名を呼ばせました。しかも下の名を。
そこに色々と想像をかき立てられます。
君島にとってのカズマは、高すぎる空。12話「君島邦彦」の回でカズマを見上げる時のイメージが強いです。
そんなカズマに影響を受けた二人の会話から、何か感じるものがあれば幸いです。
短いものですがご拝読下さり、有り難うございました!
2013.11.23