境界人たちのとある問答
世界の狭間。調律者を担う二色の翼を持つ青年は、乱立する平行世界の様子を眺めていた。
それぞれに些少の変化はあるが、多元宇宙の運行に大きな支障はない。光と闇の均衡は一定に保たれている。……今はまだ。
いずれある世界の島国を覆う闇の気配を感じ取りつつ、青年は混沌の兆候がほかにも存在しないか目を光らせていた。
と、一つの世界の表面が乱れる。青い海と空が眩しいその場所に、青年は紫苑色の瞳を向けた。
「………帰ってきたのか」
次元の境界がうねる。鏡のような形状をした幻想世界から、長い漆黒の髪と、それに映える赤いリボンを結んだ少女が現れた。
彼女の胸元には、七色に光るペンダントが揺れていた。
「サクヤ……いや……それともカグヤと呼ぶべきか」
「……私は『サクヤ』よ」
彼女が『その名』を名乗ると、少女の姿は一瞬にして妙齢の女性のものに変わる。
「あの名前は、彼にだけ呼んでほしいものだから」
錬金術を封じ込めた、特徴的なラインを描くドレス。頭の高い位置で髪を結い、神秘的な衣装を纏った女性は、青年と同じ空間に降り立った。
無感動な口調で、青年は興味なさそうに返す。
「名前なんてものは、ただの記号に過ぎないだろう」
「そうかしら。貴方にだってわかると思うけれど?」
先程まで少女だった女性は、意味深に微笑んだ。
「貴方だって、今の姿を“あの名”で呼ばれたいとは思わないように」
青年は、少しだけ不快そうな表情を作る。
「……僕は彼とは違う存在だ。シオンは人間だが、僕は人間じゃない」
「人であるかそうでないかは、問題ではないわ」
青年の内心の葛藤を見透かしたかのように、女性は続けた。
「名前とは、周りとの関係性が作るものよ。ウィンダリアに流れ着き、彼に助けてもらった“私”はカグヤ。そして今、貴方の目の前にいる“私”はサクヤ。サクヤ・マキシマ」
確信を持った声音で言い切り、女性は黙って話を聞く青年を見つめ返す。
「そして、今の貴方はゼロ。人であるシオンの意思を引き継いだ、この世界を見守るもの」
古代人達の技術の結晶である、人の形をした神器。それが女性の正体であった。だがサクヤと名乗った女性は、人に限りなく近い面差しで青年に語り続ける。
「私のも貴方のも、運命は誰かに与えられたものだわ。けれど貴方の奥底にあるただ一つの意志は、貴方だけのものよ。私と、同じように」
ゼロと呼ばれた青年は苦笑し、肩を竦めた。
「……全く。君の周りは、面白い人物が多いらしいな」
サクヤはくすりと笑みを浮かべた。しかし程なく表情を変え、ある世界を見据える。
ゼロが訊ねた。
「次はどこへ?」
「クラントールよ。彼を迎えに行かなくちゃ」
「……雪の剣の主か」
「ええ。久しぶりだわ、彼と会うのは」
右手で掴む愛刀に僅かに力を込め、サクヤは一歩踏み出す。
「もう一人の僕を、よろしく」
「ええ」
了承の返事を返し、夢幻大陸と称される次元へサクヤは消えた。
残されたゼロは、硝子の破片に映る、戸惑った様子の異界の剣士を見つめる。
「……君が開く扉は、光か闇か混沌か……」
そしてまた、どこかで世界の扉が開く。
END
ゼロとサクヤ。調律者という似た存在の二人なので、多分面識はあるだろうなと思い書いた話です。
サクヤに関しては、私は断片的なゲームと設定資料の情報しかないので、偽物度大です。
カグヤが言った“彼”はリックのこと。サクヤの言う“彼”はレイジのことです。
またゼロの“もう一人の僕”という台詞は、ぶっちゃけ中の人ネタからです。
ソウマといいレイジといい、主人公クラスのキャラに保志さんを起用したことに、シナリオで意味を持たせるとしたら、彼らに何か特別なつながりがあるとかかなーと。
実際ゼロは、アニメでソウマに「僕の眼になって欲しい」と双竜の指輪を渡していましたし。何か壮大な裏設定があるんじゃないかと、放送当時疑問に思っていましたが今も謎のままです。
……ところで、ブレイドでのソウマはどうしたんでしょうね。マオも。あと今度の新作で出る、ヴ○イオラとかセ○フィムとか。
あの二人って、まんまサクヤさんでは…おっと誰か来たようだ。
ティアーズ好きの身としては、最近のゲーム展開にかなり鬱になる今日この頃ですが、何だかんだいっても好きなシリーズではあるので、これからも思いついたらぼちぼち話を書いていこうと思います。
ご拝読くださり、有り難うございました!
2012.12.14